入手できたのはドイツ語版です(英語が原著)。調査の主眼は1930年代の東京音楽学校外国人教師陣とコルンゴルトの関連。
ロベルト・ポラックとの友情が米国時代まで続いていた点、レオ・シロタが第2ソナタの主要な演奏者である点、ワインガルテン家とコルンゴルト家との関係が父親の代まで遡る点がわかりました。
シロタが日本におけるコルンゴルト作品に対する反応に言及していることから、かれが日本で、友人の作品を演奏したことはたしかなように思います。
ポラックについては昭和8年11月8日の新交響楽団第131回定期演奏会で、指揮者として『空騒ぎ』を日本初演しています。新交響楽団は現在のNHK交響楽団です。
これらのことも、ふたりのコルンゴルトとの親密な関係を考えれば不思議ではありません。
精査すれば、日本とコルンゴルトの関係は他にもいろいろと出てきそうです。
ドイツの影響が強かったといわれる東京音楽学校ですが、昭和戦前期にはシロタ、ポラック、ワインガルテンのようなウィーンの代表的な音楽家が活躍していたのでした。
1938年のドイツによるオーストリア併合とともに、コルンゴルトのようなユダヤ人音楽家が追放されて、古い伝統は断絶を迎えることになります。
コルンゴルトはアメリカに住んでいたのですが、なお故郷に対する思いを捨て去ることはできませんでした。本書の最後の部分、ウィーンへの愛と失望に引き裂かれたコルンゴルトの姿には切々たるものがあります。
コルンゴルトを育んだウィーン音楽界の人々と浅からぬ縁をもつ日本で、コルンゴルト作品が再評価されていくことを強く希望いたします。