ロシアの皇族夫妻をまねいた宮廷による巨大な祝宴の夜、シラーとシュトライヒャーは駅馬車で、偽名を用いて友人シャルフェンシュタイン少尉が警備する城門を通過して、脱出行を開始しました。漆黒の闇をしばらく馬車が走ってから、外を見ると、シラーの故郷ソリテュードにある離宮が火の輝きにうかびあがっていました。
翌日の未明、馬車が今度はシューバルトが監禁されている要塞の近くを通り過ぎます。もとより一番くらい時間に、建物を望むことはできませんでした。エンツヴァイインゲンの駅舎で、シラーはシューバルトの詩を読みあげるのですした。
そして、プファルツ選帝侯国の首都マンハイムにたどりついたシラーとシュトライヒャーは、苦い幻滅を味わうことになったのです。
マンハイム演劇関係者のシラーに対する仕打ちは、老境に入って、オイゲン公やカール学校には寛容かつ好意的なシュトライヒャーが、なお怒りを込めて振りかえっているところです。
マンハイムはかのモーツァルトに刺激を与えたマンハイム楽派の本拠であり、さらに劇場では、ドイツ的演劇を追いもとめる動きが盛んでした。このような土壌のもとで、シラーの「群盗」は成功を収めたのです。
しかし、天才的な作家の新作を上演することと、その作家の面倒を恒久的にみることは別の問題です。シラーの新作フィレスコは拒否されてしまいました。
しかも、カール・オイゲン公爵が追っ手を差し向けるという噂も、プファルツ選帝侯国に公式に在任の引き渡しを要求する噂もひろまっていました。
シューバルトの運命は、シラーにものしかかろうとしていました。マンハイムの人々はシラーに、街を去るように勧めて、安住の地と思われた街から、シラーは事実上追放されたのでした。