芥川賞勝手に選考会
という会に参加させていただいたので、
私の評と点数のコピーをここに残す。
(点数は5点が満点の相対評価)
これは単なる自分の評価でなく、受賞予想をするものです。
他の参加者の評を見ると、
最も高い評価は受賞した『推し、燃ゆ』が多かった。
当たりです。お目が高い。
私は、ちょっと弱いかと思っていた。
綿矢りさっぽいけど、「蹴りたい背中」ほど面白くないかな、と。
しかし、若くて伸びしろの大きい人なので、賞の趣旨にあっているかな。
意外に『旅の練習』を推す人が多くて驚いた。
私には良さがわからない……。
2月あたまの文藝春秋に、実際の選者の評が載るので
それを見るのが楽しみです。
私の推しは『小隊』で、受賞予想は『コンジュジ』でした。
『小隊』はリアルな話だと思うけど、どのくらい身近に感じる人がいたんだろう?
もっと切実に読まれてもいいと思うんだけど、どうでしょう。
審査を終えてみて
公正な評価って、本当にできるのかな? 結局は好みに合わないのはダメよね?
と思ったりしました。
『コンジュジ』木崎みつ子 239枚 【5点】第44回すばる⽂学賞
小学生のせれなは父から性的虐待を受け、そのときからロックスター・リアンと幻想の世界に生きる。17歳のとき父は死に、大人になったせれなはリアンと東京で暮らす。27歳の肥満女になったせれなはリアンの素顔に幻滅する。その後リアンも父に性的虐待を受けていたと知る。幻想の父に悩まされるせれなは、リアンと和解し彼の墓で共に眠ることにする。現実のせれなは明朝また出勤するのだろうけれど。
- l バンドの来歴と幼いせれなの日常は読んでいて退屈だったが、あとの展開の準備として必要な記述と理解した。性的虐待の始まりとともにリアンとの幻想の生活に入っていき、見事に面白くなった。作家の都合でなく、せれなはに幻想に逃げるしかなかったと思わせる書き方が素晴らしい。違和感なく幻想に入っていけた。
- l 父の死で物語は終わりかと思ったがそうでなく、虐待を受けた子供の末路とでもいうものを丁寧に粘り強く追い、この問題に取り組む作者の大きな力量を感じた。
- l リアンとの生活、喧嘩、浮気、和解などを経験し、せれなの人間性が深みを増す。現実世界で得るべき成長を、せれなはあくまでの幻想の中で経験していくのが面白く、せつなく、またアイデアに感心した。
- l ハッピーエンドではないが、ひとつの旅が終わった感じの、良い区切りで終わったと思う。美しく、読後感は良かった。
『小隊』砂川文次 210枚 【4点】
北海道に上陸したロシア軍と膠着状態が続く。主人公は釧路から中標津方面の旅団における新米の小隊長の安達。以下全員戦闘の経験がない。旅団全体で圧倒的に戦力が少なく、援軍はない。安達は交戦の恐怖、敵の射殺、部下の戦死を経験し、パニックになりながらも役割を遂行し続ける自分を発見する。交戦一日目が終わってやや後方へ移動。敵の第二波はさらに兵力を増し、旅団は本部を失い、安達の小隊も部下一人を残し壊滅する。
- l 実際に日本で戦闘が起きた状況、そこでの人間の反応を詳細にシミュレーションし、リアリティを追求し書き上げた力作だと思う。絵空事でなく起こりうることと感じさせる。
- l 専門用語・略語が多く、そちらの理解に頭を使う。読みやすさの配慮が欲しかった。
- l 訓練を重ねた人間の持つ身体的な強さ、義務感で任務を遂行する精神の強さを描く一方、それが一瞬で崩れ去る危うさも常に付き纏うことを一貫して描いている。
- l 戦闘の終盤、小隊全体を脱出させるため援護射撃させた若手三人を死なせてしまう展開、信頼していた小熊への失望と置き去り。この流れがとても良い。人は役割を背負って判断し動くことと、役割を捨てた人間は別人のようになることなどを明確に描いている。
- l 個人的には受賞となれば戦場での人間について、防衛体制についてなどインタビューがあり議論が巻き起こって面白いだろうと期待。しかし、『コンジュジ』のほうが文学的に上と思われるので4点。
『推し、燃ゆ』宇佐美りん 150枚 【3点】20年⽂藝秋季号
推し活動だけに生きるあたしの日々。何にも集中できないあたしだが、推し活動にだけは有能さを発揮する。引退発表があり、推しは大人になって抑圧された自分を破壊したのだと思いあたる。あたしも自分を破壊したくなり、綿棒を投げつける。
- l 歯切れのよい真っ直ぐな文章で勢いがあり、推しを推すようになった経緯を語る情熱に驚くほど引き込まれた。ただし、その後は少々だれると感じた。
- l ADHDなのか婦人科系の病気も抱えているのか、主人公の問題は明示されない。しかし、日々に消耗し、推し活動だけが生きるよすがという限界の状況が内側から描かれ、普遍性を持ち共感させる。
- l 自分を破壊しきれず、片付けやすい綿棒で終わるラストは着地点として良いと思う。自分の小ささを自覚し、ひとつ大人になった。しかし、山場からラストがあっけなく、拍子抜けした。まっすぐな書きっぷりは好感が持てる。
『母影(おもかげ)』尾崎世界観 150枚 【2点】
小学生の娘から見たカーテン越しの母の影。少し「おくれている」母は変タイマッサージの仕事をするようになり、私はお母さんの「変」の正体を探しながら大人になっていく。
- l 少女の視点で書き、子供のときの感覚を呼び起こすような描写が優れている。冒頭、普通のマッサージをする母がお客さんの体に接触するのを見て不穏な感覚を持つ場面が良かった。
- l 母の気遣いに喜ぶフリをし、我慢もする。やるせない子供の気持ちに、リアリティを感じた。
- l カーテン越しに変タイ行為を繰り返し見る展開が単調に感じられた。隣のベッドに子供を置いておく状況が不自然。
- l お金持ちの女子が仲間はずれになったこと、いじめてくる男子の家庭、ごはんが喉を通らないことなど、良いエピソード。
- l 影を見て母の真実を探るとき、母の「変」が自分に入り込まないように防ぐとき、カーテン越しに母と繋がる瞬間など、随所にカーテンの存在が効いている。しかし、ずっと低いトーンで変化なく終わった印象。物足りなさが残った。
『旅する練習』乗代雄介 240枚 【1点】
私は姪の亜美と徒歩で鹿島へ行く旅へ出る。私は亜美がリフティングの練習をする間、風景描写など文章の練習をする。亜美は旅の間にいろいろなことを知り、考え、みどりさんという女性との出会いもあり、成長していく。
- l 活動的な亜美との旅を描くパートと、文学的パートが、動と静の振幅が大きすぎて非常に読みづらく、苦痛であった。内容が重複しているところもある。
- l 亜美にいろいろなことを教える様は教養小説のよう。文学的な描写や逸話は啓蒙の意図を感じ、素直に楽しめなかった。旅の流れがたびたび中断され、邪魔に感じた。
- l みどりさんの性格や気持ちの動きは理解できるものの、事情の詳細までは不要ではないかと思った。
- l ラスト、なぜ亜美が死ぬ結末になるのか理解できない。死ぬ意味や影響が十分に書かれておらず、放り出された印象。これで大きく減点した。