◎グループワークについて
そういった問題が今ある中で、子どもたちの人間関係の問題を解決し、心を育てる手段としてグループワークが今注目、活用されているという現状があるんじゃないのかなと思います。
グループワークは、定義としては、個人の心理的教育・治療や対人関係の発展のために、メンバー間の相互作用を用いる技法の総称と定義されますけれども、文部科学省が出している、生徒指導提要という各学校、全校に配られているマニュアルの中に「教育相談の新たな展開」(図6)というページが3ページほどありまして、そこで紹介されているのがここにある8つの活動ですね。

グループ・エンカウンター、いわゆる構成的グループ・エンカウンターですけれども。ピア・サポート、ソーシャルスキルトレーニング(SST)ですね。アサーション・トレーニング、それから、アンガーマネジメント、ストレスマネジメント、ライフスキル、キャリアカウンセリングなどなどですね。下の方はあまり馴染みのない名前もあるかと思いますけれど、アンガーマネジメントは、怒りのコントロールということですけれども、子どもに対するコントロールということでもあるし、大きな声では言えないけれども、先生方に対するコントロールというのもあると思うんですよね。体罰とか、ぱーっとやっちゃうとかね、「かっとなったら三つ数えましょう」とやっているみたいですけれども、それが、大人も子どもも必要になっているという状況です。ここに、インプロは入っていないんですね。いつか入るといいなと思うんですけれども。
○現場の混乱と背後にあるもの
現状として、こういう形になっているわけなんですよね(図7)。

つまり、本屋さんに行くと、いっぱい本が出ていて、それぞれこういうやり方がありますよ、こういうふうにやるといいですよと書いてあるんですね。書いてあるんですけれども、これだけいっぱいあると、じゃあどれを使えばいいのか、何がどう違って、どんな効果があって、うちのクラスの子どもたちに何をしたらいいのかということがパッとわかる現場の先生はそういないと思うんですよね(図8)。

じゃあ、どれがいいのかと、試しに1冊買ってみて、新学期にやってみてというのが現状じゃないかなと思うんですけれども。それでもやらないよりは良いと思いますけれども、どれだけ効果があがるかという点では、心許ないところがあるかなと思います。
その混乱の背後にあるものとしては、まず一つ、人間関係に関して現場が必要としていることが非常に基本的なレベルになって、かつ増大しているということですね(図9)。

一方、各技法が提案している内容は専門化し高度化している。 だいたい大学の先生がいろいろ考えて、自分の研究でやっていることを、現場向けに下ろしているつもりで書いているんですけれども、やっぱりちょっと内容的に、ある意味で言うと、タコツボ的なところはあるのかなと思うんですね。
それを是正するためには、ワークの内容・あり方を学校と子どもたちの現実にすりあわせる必要があるだろうということが一点。それから、心に関する活動はインスタントな効果は望めません。なので、繰り返し実施する必要があります。 繰り返し実施するには少数の明確なコンセプトに基づいて整理する必要があります。でないと、やってることがごちゃごちゃになっちゃいますから。
私もいろんな学校から依頼を受けて、その依頼を受けるときの雰囲気、空気として感じていることなんですけれども。いろいろ困っていることがある、それはわかります。で、なんかやってくださいという。で、やると、そこで私が魔法の杖を振ってくれるように思っている学校が結構あるんですけれども。それは、無理ですよということは最初に言います。インスタントな効果はありませんと。私はやりますけれども、やったことを学校でどうやって継続して、子どもたちに実践していくか、そこは皆さんがやらないと難しいですよということを言う訳ですけれども。じゃあ何をどうやればいいんですかということを、そこで話が長くなると、諦めちゃうわけですよね。諦めないで、じゃあやってみようかなと思ってもらうためには、コンパクトにこれとこれとこれをやってくださいというふうに整理してあげないといけないわけなんですね。
○構成的グループ・エンカウンター
今、一番学校の現場で取り入れられている活動は、さっきも言った、構成的グループ・エンカウンターですね(図10)。

これはもう学校の現場の中で一番ポピュラーにやられていて、だいたい先生方に言えば、聞いたことがあるとかやったことがあるとか、日々実践してますという方までおられる。全く知らないという人はまずいないと思います。
これをベースにちょっと考えてみたいんですけれども。6つの機能があります。自己理解、自己受容、他者理解、自己主張、感受性、信頼体験ですね。で、それぞれの中身は右側に書いてある通りです。
これをですね(図11)、ちょっと6つは多いかなと思うんですよね。

よく見るともっと整理できるかなと思います。どう整理するかというとですね、「自己受容」ですね。ありのままの自分を受け入れるということがありますね。いろんな自分があるわけですけれども、実際の自分をすべて自分で受け入れる自己受容ですけれども。それは、「自己理解」のバリエーションと考えることができるかなと思います。つまり、自分に対する理解の幅をもっと広げていけばいい訳ですから、その中には自己受容が入ってくるかなと思います。この2つはまとめることができますかね。それから、この図の左下ですけれども、「他者理解」とありますけれども、自己理解、他者理解これは、1つのコインの裏表の関係です。私にとっての自己理解はあなたにとっての他者理解です。で、あなたが例えば私に対して他者理解することは、私の自己理解になります、ということですね。それを、あとでもう1回言いますけれども、要するにその人の人となりについて理解することだというふうにまとめることができるかなと思います。
それから、図の右側を見て頂くと、6つの機能の「感受性」と「信頼体験」。感受性は心の感度を高めるということ、信頼体験は他者を信頼するということなんですけども、この2つはですね、人と関わるということの2つの側面なんですよね。どういうふうに人とかかわるかということで、かかわり方の感度のレベルを上げましょうという感受性ですね、それから、相手を信頼してかかわりましょうというのが信頼体験ですね。ここでは、相手のことを具体的に知る必要はありません。相手がどこに住んでいるのかとか、今日何を求めてここに来ているのかとか、血液型が何型かなんていうことを知る必要は一切ないし、自分についてそれを表現する必要もないですね。ただ、かかわりのあり方を、今までとはちょっと違った形にすればいいということですね。なので、左側は理解するということをやっていく。そして右側半分はかかわるということをやっているというふうに整理することができると思います。
真ん中の自己主張のところが微妙なんですけれども、SGEのエクササイズの中で、自己主張というのは、自分の本音を表現するとありますけれども、代表的なエクササイズとしては2つあります。
ひとつは、よく使われているのは無人島SOSというものです。無人島にあなたは流れ着いてしまいました。そこに10個のアイテムがあります。10個のアイテムのうち、どうしても必要な3つを選びましょうというのを、一人一人選んで、それを今度はグループで話し合ってグループとしての結論をまとめましょうという、そういう課題ですね。それは、自分が思っていることを相手に表現して、また相手の言っていることを聞いて、その中でコンセンサスを得ていくという課題ですね。この無人島SOSの課題の場合、自分の人となりについては表現する必要はありません。自分が何に価値を置いているかとか、自分がこれが好きだ嫌いだということではなくて、科学的に考えて、どれがベターかということを考えればいいわけなんですよね。そこでは、個人の考えよりも、客観性のほうが求められますから、理解するということは必要ないわけです。それよりも、何が科学的に根拠があるかということをベースにして、人とかかわればいいわけなんです。なので、この課題はこの図の中では右側のかかわり寄りということになります。
同じ自己主張の課題の中でも、たとえば結婚の条件という課題があります。自分の結婚相手に必要と思う条件6つあげて、その中から1つ選んでください。例えば、容姿、収入、性格、愛情、健康、知恵が大事とかっていう、その中から1つ選んで、それをまた、グループの中でコンセンサスを得ましょうという課題ですね。この場合は、自分の価値観について自分で理解する、それから相手の価値観を理解するということが必要になりますから、この図の左側、理解するというところに寄るということになります。なので、この自己主張は真ん中に置いておいた方がいいかなと思います。
下に自己表現というのがありますけれども、自己主張の課題の中には、コンセンサスを得るということよりも、もっと自分を表現して、みんなで1つの絵を一緒に描きましょうとか、1つのパフォーマンスをやりましょうというものもあります。構成的グループ・エンカウンターの中ではそれはものすごく隅っこのほうにちょこっとあるぐらいなんですけれども、自己表現というのもこれからの時代は特に大事になってくるんじゃないのかなと思っています。なぜなら学校ではですね、正解があって、その正解にいかに早く正確に辿り着くかということを求められている組織なんですけれども、その中で、正解がないカテゴリーの中で、何を自分は表現していくのかということが、これからは大事になっていくかなと思います。なので、今はあまり重要視されていないんですけれども、自己表現は大事だと思うし、実はここでやっているインプロなんかも、自己表現がメインになってくるかなと思います。
○グループワークの3大要素とその関係
で、それを整理すると、こういうことになるかなと思うんですね。3つに分けることができる(図12)。

3つの3大要素として、一番下、ベースにかかわるということがあって、その上に理解するということと表現するということ。この3つをですね、グループワークの中で実践していって、そこから子どもたちに何かを学び取ってもらいたいと思ってこれを整理しました。
さらに、この3つの関係(図13)なんですけれども、実はこのすべての活動は人とかかわることにおいて成り立っているので、自分で机に向かってプリント学習してなんかやってるとか、自分で腕組んで目をつぶって瞑想してたらなんか湧いてくるとかというものではなくて、すべては人とのかかわりの中で生まれてくることなので、一番下に書いてある「かかわり」は、こういうふうに並べると、3つのうちの1つなんですけれども、でも他の理解するにしたって表現するにしたって、かかわることをベースに成り立っているので、全体の構造としてはこういう、二重の円構造になるんじゃないかなと思います。

で、かかわるということの中に、左下に広義のかかわりとありますけれども、すべては人とかかわることによって成り立っているのだと言ったら、それは広義のかかわりですね。その広義のかかわりの中で、でもこの活動の中には相手のことを理解することは含まれてないよねとか、自分のなにかを表現することは含まれてないよねという、ひたすら人とかかわるということもあるわけですよね。たとえば、絹川友梨さんが最初にやってくださったのは、どちらかというと、人とひたすらかかわりましょうということをやっていたんだと思います。声を出しましょうとか、人の話を聞きましょうということの中には、新しい何かを創造しましょうとか、相手のことを理解しましょうということは、大きくは入ってきていないと思います。それも、大事なポイントであると思います。
構成的グループ・エンカウンターと、それから今日は端折りますけれども、グループワーク・トレーニング(GWT)という課題、それからインプロの活動の中に、それぞれがどれくらい含まれているかというのを、友梨さんの本も含めて、エクササイズ集を見て、その中で全部分類した結果がこんな感じになっています(図14)。

構成的グループ・エンカウンターでは、相手のことを理解するということがメインですね。インプロは表現するということがメイン。インプロはウォーミングアップでやっていることと、メインの活動でやっていることが、大体はっきり分かれているので、かかわるということはウォーミングアップでやっていることですね。で、そのあとの、イエスアンドを使った、エクステンド&アドバンスを使ったいろいろな活動は、みんな表現することを目的にしていると思います。GWTの活動は、説明は省略しますけれども、かかわることがメインですね。GWTで取り扱われているエクササイズはほとんど、SGEからの借り物なので、そのへん少し混ざっているなと思ってみています。