マーフィーの法則 って昔流行りました。なんかそれにでてきそうな状況。
今日は幸い私のことじゃありません。P&Jのマスターです、主人公は。お気の毒に。 私は傍観者。
入店すると、カウンターの上には全然固まっていないコーヒーゼリーが複数、溶ける気力を失ったバターの入ったステンレスのボール、空っぽのケーキのケース、それらがなんとなく置かれておりました。
店内にはあの時間帯としては標準的な数のお客様。そして次々と新たにお客様が来るのも12時を前にした午前中の風景としては、最早見慣れたところ。
しかし、マスターは時間の流れに取り残された、まるでカフカの小説の登場人物のように、運命にあらがって、粘りつく空気をかき分け、かき分け、各テーブルとカウンターの内側を往復。過負荷にあえぐ心臓の鼓動が上階の住人を揺り起こしそうだ。
早々と疲れちまったのか? いや、違う。 何かが狂ってる。 そりゃぁ仕方がない、狂った人々に囲まれているんだから。
パウンドケーキはいつになったらオーブンから出て来るんだ? バターが言うことをきかなくてさ。
ココアがいいな。 紅茶はレモンティ。 ありえない! レモンだなんて。 ミルクにきまっとるやないか!
今日はタバコの煙だよ、シガーじゃない。 だって、シガーは遠くダラスを経由していて、まだ届かない。
エンドラ? ダンボ? ダグート? 違う、違う、サマンサタバサ!
一組、また一組と会計をすませて、明るい日差しのさす通りへとお客様は出て行く。みなさん満足してにこやかに。どこへ行くにも良いお天気である。 振り返ると、もう店内には私一人。
傍観者が時間の流れに引き戻される刹那、扉が開かれ店内の空気は粘性を失った。奥様の登場。
よかったねぇ、マスター。 やっといつもどおり動き始めたよ。 その証拠に、じきに、いつもの人たちがやってきた。狂ってない方の人たち(笑)。 注文は?
白にきまってる(笑)。 ゴマはいらねぇ。