今日の我が家の食中酒 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

あさ開 純米大吟醸 一本義 袋吊り 純米大吟醸  一本義 大吟醸熟成酒 一朋 

久保田 純米大吟醸

 

日本酒は単純なようで実は難しい。ワインの方がすっと違いがわかりやすい。

自分の日本酒に対する評価が定めにくいことが、個人的に悩ましい問題になっている。

 

まずもって、日本酒はワインのように長期に熟成するほど美味しくなることはない。

飲み手の趣味にもよるが、古酒は新酒と同じ基準で判断することはできず、

今手に入る酒が今飲んで美味しいかどうか、旬があるのでなおさら難しい。

 

中性ルネサンス音楽評論家である皆川達夫が、30年くらい前にワインの本を書いていた。

その記述の中で、日本酒はヴァリエーションの幅が狭い、

どれを飲んでもさほどの差はない、という意味の文章を書いていたように記憶している。

 

音楽評論は趣味の世界であり、読むと腹立つ評論家も多いのだが、

そんな中で、皆川達夫は音楽評論家してわたしが最も信頼する人物であり

80歳を超えた現在でも活躍しておられる。

 

しかしこの皆川達夫の日本酒に対する30年前の評価は明らかに大雑把だ。

当時の日本酒のレベルを伺わせる記述と言えるだろう。

 

その後日本酒のレベルは上がっているのだ。

「日本酒はワインより難しい」

そして深い。

これは和食の深遠さともちろん無関係ではない。

 

同じ酒を飲んでも日によって、合わせる料理によって評価が変わる。

自分の感性の不確かさ、日々の不安定さ、食との相性など、色んな要素があるのだが、

評価を定められない自分がもどかしい。

 

当たり前だが、日本酒は総じてワインより糖度が高く、酸度が低い。

甘いアルコール飲料ほどわかりやすいが、そんな日本酒だからこそ

食中酒として料理との相性が問題になる。

 

居酒屋でアテをつまみながら、酒を飲んで歓談する、というのはそこいらで見かける風景で、

それは食や酒の質そのものが問題になっていない。

酒もつまみも主役ではないのである。

 

ここで話題にしている日本酒とは、世界に冠たる和食に似合う酒は何か、という

極めてハイレベルな問題である。

例えば木綿清次とか塚本秀夫などの天才とも言える料理人が、

丹精込めた食を供するとき、そこに登場する酒は何か、という話なのである。

 

もめんさんの料理には完成された芸風があって、酒に細かくこだわるのは

良しとしないという矜持が感じられる。

一方、つか本には麻里奈さんという感性に恵まれた探究心旺盛な女性がいて、

毎回新しい酒を提示される。

 

毎度つか本の現場で供される酒には納得するするのだけれども、

後日同じ酒を自宅で購入しても、店で飲むのとでは違う印象を受けることが多い。

 

そこで毎回自宅で悩んでしまう。

自分の感性がぶれることを毎日反省し、検証に励む日々なのだが、

ワインだったらここまでブレることはない。

だから日本酒の方が難しいと書いているのだ。

 

酒は、最上の料理人が出してくる料理の魅力を引き立てる大切な役割を担っている。

これはワインも同じで、料理にに介入して塗りつぶすような独立性の強い酒は、

違う観点から評価すべきであろう。

 

自宅には天才料理人はいないけれども、料理が得意な家内がいて、

もめんやつか本にたまに一緒に行くと、そのノウハウを盗み、

自分のレパートリーを増やしており、とても美味しい一品をしばしば出してくる。

そして、自宅で開ける酒も、料理に合わせて斟酌する必要にかられる。

 

自宅の食事は和食が多いので、ワインのストックは多いが、

日本酒は一期一会で、毎週のごとく新しいものを入れ、検証する日々になっている。

終着点は見えない。

 

一昨年まで、決して安くない獺祭をいろいろ購入して試していたが、

工業製品のごとき画一性が鼻について、嫌気がさしてしまった。

内容に比しあまりに高価で、ブランド志向の人間以外には相手にされなくなるのではないか。

「その先へ」を除いて、これはこだわる飲み手向けではない。

 

わたしは今後獺祭を自腹で飲みたいとは思わないが、蔵にはストラテジーがあるそうなので、

世界に向けて分かりやすい日本酒として市場拡張してもらいたい。

 

上の写真の酒はいずれも個性的で、優劣は付けがたいが、獺祭とは比較にならない。

最も安価な久保田の純米大吟醸は食中酒として一歩抜き出ている、と今日は感じた。

きっと明日の印象は違うと思う。

 

ブルゴーニュワインは日本酒よりもっと明瞭だし、

ボルドーワインの違いは自分にとってはどうでもよくて関心がない。

 

かように日本酒は難しい。