完全主義者・・六覚燈 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

今月初め、この秋初めて六覚燈を訪問した。
先日地元医師連合会の会報に六覚燈を紹介する記事を書いたのだが、
同じ文章をこのブログにもアップした。
ソムリエの中山さんによると、このブログを見てやって来た、という
お客さんが数組あった、ということだ。
このブログの影響力は、我ながら大したものだと自画自賛する??

さて、暑かった今年もようやく秋深くなり、赤ワインの季節がやって来た。
今回は何が出てくるだろうか、と胸躍らせて訪問したところ、
とんでもないものが出てきた。
ようやく心落ち着いてきたので、ここでレポートすることにする。


ブルーノ・パイヤール ブラン・ド・ブラン 1995
開栓日    2007年11月1日
インポーター ミレジム

最初からこちらの好みを読み切って攻めてきたと言うべきか。
切れ味はよいが深みがあるという、背反した要素が同居するシャンパーニュ。
今年の3月にここで開けてもらった同じパイヤールのプレミエール・キュヴェNVより、
こちらの方がずっと繊細で深く、2ランク上の印象である。

ブラン・ド・ブランだからシャルドネ単一のシャンパーニュなのだが、原酒の良さ、
すなわちブドウそのものの力で勝負していると感じさせる。
甘みが少ないから、液温が上がってもぼやけない。
感心したのは、ものすごく泡が細かいことである。


ドメーヌ・ルイ・レミー モレ・サン・ドニ 1er Cru 1980
開栓日    2007年11月1日
インポーター モトックス

これはお馴染みのワインで、この六覚燈でも飲んだことがあるし、3年くらい前に
自分で3本くらい購入して開けた。
さすがに30年近く前のワインとなると、1本1本相当異なる。
自宅で開栓したものには、枯れかけていたものもあった。

今回の1本はお見事と言うべき古酒で、しっかりと残って小さくなった果実が
口腔内を転がって遊ぶ。
このワイン1本だけでも、1人で飲んだら至福の数時間を過ごすことができそうだ。

「きれいに熟した古酒ですね」と中山さんに言ったら、何と
「実はこれ、2本目なんですよ。
 先に1本開けたのが万全でなくて、きっと先生のお気に召さないと思いまして、
 はねました」
などとおっしゃる。

そして、没にした1本をグラスに注いで持参されたが、確かに香りがまったく違う。
一口飲んでも広がりを欠く古酒だったが、自宅でなら我慢して少しは
飲み進めたかも知れない。
同時に造られたはずのワインなのに、ずいぶん違う。

これは何もわたしだけに対する対応ではない、と思う。
この店では毎日約40本のワインが開くそうだが、客に出せないと判断されるものが
いくばくかあるため、毎日何本かははねているのだ、と聞く。


ドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ミュジニー 1995
開栓日    2007年11月1日
インポーター サントリー

本日の主役、ヴォギュエのミュジニーである。
ミュジニー最大の所有者なのだが、その割には何故かあまり見かけない。

一言で言うとまだまだ若く、閉じているなと思った。
堂々と屹立する大きな体躯に圧倒され、店での1~2時間では僅かに変化するそぶりを
見せるだけだ。
それでも1時間を過ぎる頃からかすかに酸味が湧き上がってきて、少しわたしに
微笑んでくれた。
しかし、決してフェミニンなワインではない。

このワインには、まだまだ先に世界が広がっている、という可能性をひしひしと感じる。
あと10年くらいは十分持ちそうで、毎ヴィンテージ3本ずつ揃えて楽しめたらいいな、
とできもしないことに思いが巡る。
しかしお金はともかくそもそも手に入らないし、新しいヴィンテージが買えたとしても
それが飲み頃になるまで自分の方が持つかどうか、ということの方が問題だ。

これもまた1人で1本開ける、という贅沢なことをしないと、真の実力は
測れないのではないだろうか。
この年のヴォギュエの出来はどうだったかよく知らないが、
この特級畑の底知れぬ深さだけを実感し、最後はオーストリアの貴腐ワインで
今回の宴を終えた。


SALON トロッケン・ベーレン・アウスレーゼ 1995/96

ブルゴーニュの世界はまったく恐ろしい。
妖艶なピノ・ノワールに官能の世界に引き込まれるのではなく、
自分はまだほんの入り口にしかいない、ということを知らされた1日であった。

相変わらず勝男さん(名前じゃなくて名字)の揚げる串カツは美味しいのだが、
同じものを食べているのに、この店を出るときの感慨は毎回異なるのである。

懐の深い店であると感じさせるのは、ワインの魅力によるものか、
はたまたソムリエの技量によるものか。