わたしはそもそもガメイは好きでないし、ましてワインの早飲みはもっと好きではない。
だから少なくとも昨年までは、ヌーボーを心から美味しいと思ったことはなかったし、
ヌーボー騒ぎにも批判的であった。
数年もののボージョレ・ワインは値崩れ状態で、ムーラン・ナ・ヴァンなどの地域名の
入った高級品でも1000円台から手に入る。
それを何でまた3000円以上の大枚をはたいてまで、解禁日に飲まねばならないか、
理解に苦しむ。
数年置いておいた方が明らかに美味しくなるし、安く手に入るというのに。
大阪在住のワインの達人Georgesさんも書いておられたが、
ヌーボーは、現地で500円以下のワインを、1000円の輸送費(航空便代)をかけて輸入し、
デパートでかつて5000円以上の値で売られていたことがある。
こんなものを喜んで買うのは、アホでなくて何であろう。
最近でこそ少し安くなったが、それでも3000円くらいするヌーボーはざらにある。
そこまで払えば、ボルドーのシャトーものでも、ブルゴーニュの村名ワインでも、
間違いなくもっと美味しいものが飲めるのに、多くの衆愚はヌーボーを選択する。
要するに「ボージョレ・ヌーボー」というお祭りの市場が、すでに出来上がっているのである。
これまでは、発案者と言われるジョルジュ・デュブッフの独占状態だったような感がある。
デュブッフのヌーボーなど、毎年のできがどうだ、ということなど議論するのもアホらしい
レベルのワインだとわたしは思っている。
しかし、市場が大きくなるにつれ、さまざまな選択肢があるようになった。
上記のような、昨年までのわたしの考え方も、そろそろ古くなっているかも知れない。
ボージョレだから、すべて安ワインで500円の価値しかない、ということもないだろう。
ボア・ルカもトゥレーヌでガメイを造っているが、丹誠を込めて造られたためか、
アペラシオンを越えたワインが出来上がっている。
今年できたブドウから造られた、短期醸造酒をすぐに飲むことは、ワイン飲みには
一般的であるはずはないと思ってきたが、オーストリアにもホイリゲというものがある。
若いころウィーン郊外の居酒屋をハシゴしてホイリゲを飲み比べたことがあるが、
これは実にうかまった。
赤ワインでも、新酒のうまいものがあってもいいじゃないか。
そう考えると、ヌーボーも捨てたものではないかも知れない。
ここまで日本での市場が大きくなってくると、質の高い新酒だって、出てきてもおかしくない。
信頼する売り手であるAlcoholic Armadilloは、若飲みできるビオワインなどを
多く取りそろえている。
若飲み嫌いなわたしも、ooisotaroさんの影響もあって、早飲みがゆえに魅力的なワインが
存在することを知るようになった。
そのAlcoholic Armadilloが勧める、自然派ヌーボーのセットを今年は購入してみた。
どうせ1人では飲む量は限られているので、家内の文学賞受賞祝いをかねて、
家内の師匠のUTAさんとその弟子4人(家内を含む)を招いて、本日早速飲み比べをした。
開栓したワインは以下のごとくである。
UTAさんが相当なピノ・ノワール中毒と分かっているので、後半2本はこういう選択になった。
1)フレデリック・コサール ボージョレ=ヴィラージュ・プリムール『ラパン』 2006
購入日 2005年11月16日
開栓日 2006年11月16日
購入先 Alcoholic Armadillo
インポーター コスモ・ジュン
購入価格 3300円
2)フォリップ・パカレ ボージョレ・プリムール 2006
購入日 2005年11月16日
開栓日 2006年11月16日
購入先 Alcoholic Armadillo
インポーター 野村ユニソン
購入価格 3300円
3)ルイ・ジャド ボージョレ・ヴィラージュ・プリムール 2006
(いただきもの)
開栓日 2006年11月16日
購入先 阪急百貨店(包み紙から)
インポーター 日本リカー
購入価格 4000円弱?
4)ドメーヌ・ラ・プス ドール サントネ 1級畑 クロ・デ・タヴァンヌ 2002
購入日 2005年1月
開栓日 2006年11月16日
購入先 ヴェリタス
インポーター ラック・コーポレーション
購入価格 3480円
参照記事
5)ジョルジュ・ルーミエ シャンボール・ミュジニー 2000
購入日 2006年1月
開栓日 2006年11月16日
購入先 INAGEYA
インポーター INA
購入価格 6980円
参照記事
1)も2)も、するすると軽やかに身体に入ってくるビオワインである。
しかし香りも味も、微妙に違う。
色はパカレの方がわずかにオレンジ色がかっていると思ったが、照明が暗かったので自信はない。
苺のような香りはいかにもガメイだが、これは1)2)3)の順に強くなる。
3)は本日あるところから頂いた、ビオではない正統派のヌーボーだが、世評の高いもので、
最もどっしりとして先の2本より重くて格調がある。
この香りは、ブルーベリーを煮ているときの甘い香りにそっくりである。
最もガメイっぽくないのがコサールのうさぎちゃんで、ベリー系の香りだが、よく注意しないと
ガメイであることを意識させない。
一方正統派のジャドは、さすがにボージョレを造り慣れているとあって、新酒と思えないくらい
しっかりしたワインである。
ピノ中のUTAさんは、ジャドの味わいを舌が絞られるように渋いと表現し、
家内は鉄さびの味だという。
ガメイの特徴をストレートに表現していると言える。
ビオの2本は、逆に旨味系が勝っており、コサールの方がガメイ度が軽い。
若飲みワインの造り手だと、ルーミエ親父とわたしの意見が一致したパカレは、思ったほどはビオ香も
立っていなかったし、旨味もわたしの期待ほどではなかった。
しかし、今日開けた3本のヌーボーは、どれも従来の葡萄ジュース的ヌーボーとは一線を画し、
おそらくブドウの段階から吟味された美味しいワインであった、と言って良い。
そこで対照に先日開栓したプス・ドールのサントネ1級を開栓したが、予想どおりUTAさんには
大受けであった。
プルメリアの香りがするとUTAさんは言われたが、この人の嗅覚のすごさには、今日は感心した。
その香りはしばらくするとカラメルの香りが入ってきて、その後にはカカオの香りもすると言う。
言われてみればそうだろうと思うのだが、そこは五感の鋭さの違いがあるようである。
そして5本目はお馴染みになったルーミエだが、この1本はアタリだった。
控えめに立ち上がるアロマは、家内が嗅いでいつもわたしが自宅で飲んでいるワインの
香りだ、と即座に指摘。UTAさんはナッツの香りだとおっしゃる。
南のサントネとは、同じピノでも性格がかなり異なり、陽に対する陰性のピノである。
UTAさんは、上品な甘さを湛えた陽気なサントネを好むと言われるが、わたしは倍の金を
払ってでも、ストイックなシャンボール・ミュジニーがいい。
ただしこのルーミエ、1時間で飲み切るには少々もったいなくて、翌日にはもっと
伸びていそうだし、あと1年して開けた方が飲み頃だったと思う。
ルーミエを開けると思索に耽りたくなるが、ヌーボーを開けると新鮮で楽しくなる。
ワインもTPO。新酒には新酒の楽しみ方がある。
楽しむには、よくできた新酒でなければ意味はない。
今日のヌーボーたち、3000円くらいなら払っても十分価値があるように思われた。
かくして解禁日のワイン会はお開きになり、わたしは大学の助教授を連れて医師会の
会合に向かったのであった。
あ~しんど。