泥水ワイン、わたしの反論 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

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テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

前の記事からの続き。
仕事でもたもたとしているうちに、わたしが敬愛する飲み手の方々から、鋭いコメントを
頂いてしまった。ooisotaroさんの、
「ふむふむ・・・ほほぉー、へぇー・・・」
に続いての、「コメントを差し控えます」というコメントを読んで、笑ったのはわたしだけ?

ファインズからのご丁寧な報告書を手にして、わたしは感心したかというと、まったく逆である。
正直言って「アホちゃうか」と思った。

なぜなら、最初の苦情のメールでも、「怒りの泥水ワイン」の記事の中でも、
「これはまるまる1本澱だった」という趣旨のことを伝えてある。
それなのに、ぬけぬけと「酸化のせいだ」などと書いてくるとは・・・

これらの報告書は、
「ドメーヌは模範的な方法できちんとワインを造っている」
「より自然なワインを造りたい、という目的で、最小限の亜硫酸しか使用しなかったために
 酸化が起こってしまった結果、このワインはあなたの満足のいくワインではなかった」
と書いている。

これは、報告書の体裁を取った、ドメーヌに対する擁護文である。
インポーターが、消費者と生産者のどちらを大切に思っているのか、そこから垣間見える気がする。

わたしは最初のブログでこう書いた。
「ベッタリとボトル壁に付着した澱。・・・中略・・・
 芳香を放つのはコルクだけで、グラスに注いだ泥のような濁った液体からは、腐った雑巾のような
 異臭が漂う」

このワインは澱が多かった、のではなく、ボトルの中には澱しか入っていなかったのである。
クレームのメールでも、そのことははっきりと伝えたのだが、受け取った報告書では、
その「事実」がすっぽり無視されている。

そして、報告書では、いかにもワインが造られた過程とその後の輸送・保管状況につき、
詳しくレポートされているように見えるが、要はドメーヌには責はない、という弁解が
書かれているだけで、目新しい事実などは何も述べられていない。

「お客様の満足を得られなかったワインでありましたことをお詫び申し上げます」
という表現があったのだが、これにも問題がある。
いかにもわたしの主観に責任を押しつけたような表現であり、非常に心外であり、失礼である。

わたしが満足するかどうか、という問題とすりかえるというのなら、論外だ。
そんなにこのワインが、ドメーヌのミスによる不良ワインだ、と認めたくないのだろうか。
まさに、結論先にありき、の報告書である。

繰り返すが、このワインの瓶の中には、澱しか入っていなかったのである。

「亜硫酸が少ない結果、酸化が進んで濁った」
のが事実であるなら、digiengelさんがおっしゃるように、現在残っているこのワインのすべてが、
同じように濁っていてもいいはずだし、世の多くのビオワインも濁ったものだらけになるだろう。
しかし、わたしの手元にあるもう1本の同じワインは、澱は壁に付着しているが、濁ってはいない。
これをどう説明するのだろう。

さきほど、このブログを読んで下さったワインに非常に詳しい方から、個人的にコメントを頂いた。
本人に断り無く、ここに1部を引用する。
「ボトル一本すべて澱と云うことですか、フィルター無しで瓶詰めをしていて、よそ見しながら
 作業をしているとこんなことが実際に起こり得ます。しかし普通裏ラベルを貼るときとかに
 見つけられるはずなのですが」

まさにぴのほりさんが書いておられることと同じである。

先日電話でファインズのT氏と話したときに、
「樽の底の澱の部分を瓶詰めしてしまったとわたしは考える」
とはっきり伝えた。そして、
「故意にとは思いたくないが、ブルゴーニュの生産者には日本市場を舐めている輩がいるかも
 知れない。インポーターとしては、われわれ消費者のために、十分注意して欲しい」
とも偉そうに言っておいた。

T氏は、
「このドメーヌとはクルチエを通じての取引で、これまで直接接触していないので、
 今後はドメーヌを訪問するなどして注意したい」
と返答された。その言が実行されることを期待したい。

それにしても、残ったワインを送り返しているのに、このワインが不良であった原因を、
インポーターはなぜきちんと指摘できないのであろうか。
酸化以外の可能性を列挙して報告してもよさそうに思うのだが。
澱が瓶詰めされた、という可能性を、インポーターは一度も指摘していない。
わたしが一番失望したのはこの点である。

ドメーヌのミスである、と認めない理由はいくつか考えられる。
1)事実を把握する能力がない
報告書には、「サントリー品質保証推進部安全性科学センター」の分析結果が載せられていた。
これでもわたしは、超1流の研究室で約7年間の研究歴がある。
ごたいそうな「○○科学センター」などという名称のご威光など、屁とも思っていない。

それより、酸化でこうなると本気で信じているとしたら、この科学センターの沽券に
かかわるのじゃないか。
ファインズには、ちゃんとしたワインの飲み手は、誰もいないのだろうか?

2)事実を把握しているが、消費者に公表したくない
ならば、よけいにたちが悪い。
こんな内容の報告書で、はいそ~ですか、と納得すると思っているとしたら、
わたしを見くびっているとしか思えない。
もうちょっと、ちゃんとこのブログを読んでいただきたいものだ。

3)会社のマニュアルに、生産者を擁護すべし、とある
事実を隠蔽してでもそうするというなら、消費者無視もはなはだしい。

ファインズは、小手先の策を弄して墓穴を掘ってしまったように思われる。
こんなうるさくて理屈っぽいブルゴーニュ飲みに引っかかったことはお気の毒ではある。

しかし、こちらとしては、謝罪されるような話ではなく、感謝されるべき立場ではないか、
と思っている。
苦情を言って補償を求めるのが目的ではない。
このブログでも、いろいろコメントをいただいてわたしも勉強になった。

いくらクルチエやインポーターが持ち上げても、たった1本のワインのおかげで、
このドメーヌの信用は、わたしの中で失墜した。
あのミシェル・グロなら、きっとこんなヘマはやらないだろう。

実は、ドルーアン・ラローズのシャペル・シャンベルタン1998でも、同じことを昨年経験している。
以来、その1本以外にも、このドメーヌにはいろいろ問題があることに気がついた。
そうやって、ドメーヌの評価は定まっていくのではないだろうか。
インポーターが、それを望むか望まないかにかかわらず。

ファインズの担当者が、直接やって来る、という話もあるので、また後日談があれば報告する。
わたしは文章を書くより、ディベートの方がはるかに得意である。
お気の毒です、担当者の方。