ロワールのホイリゲ | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る


ドメーヌ・ボア・ルカ トゥーレーヌ ブラン (ロワール)2003
購入日    2006年1月
開栓日    2006年4月17日
購入先    下里
インポーター コスモ・ジュン
購入価格   4450円

言うまでもなく新井順子さんが手作りで造られたワインであり、ooisotaroさんに背中を押されて
今年初めに探して購入したものである。
わたしが新井順子さんの著書を読んだのは2~3日前なので、購入したのはもちろん読む前である。

購入した下里酒店の奥さんが新井さんのお友達であることは、Alcoholic Armadilloの
いのまた専務から聞いていたが、下里さんが渡仏されて畑の世話を手伝われているさまが
著書にも出てくる。

得体の知れぬ大阪弁のウサギ親爺が、稀少な在庫をさらって購入したのだが、
本を読んでワインができるまでの苦労を逐一知ってしまうと、ぞんざいには扱えない気にもなる。

だが、少なくともわたしは、そういうことは気にしない。
かつて友人が常任指揮者を務める、関西有数のアマチュア合唱団の演奏会に行き、
正直に評価をしたら、その友人を失ったことがある。

当然後悔していない。
わたしは仕事では妥協しても、趣味では絶対に妥協しない。
でもワインは本当にシロウトなので、このワインもただただ感心しながら飲んだ。

本を読んだから、これを開栓したのではない。
実は別のブルゴーニュの赤を開けようと思ったのだが、夕食が貝柱のソテーであったので、
急遽白ワインにしたというだけなのである。

ワイン蔵の常温である14℃で開栓。色は濁った黄金色である。
軽い腹膜炎を起こしかけた患者の虫垂炎の手術時に見かける、軽度に混濁した腹水の色、
と言えば分かりやすいか(どこが!)。
グラスに注ぐと、微発泡しているようで、細かな泡がグラスの内側を覆う。

香りは爽やかで、確かに青リンゴのようにフルーティで、鬱々とした色の印象を吹き飛ばす。
余韻は非常に長いと思う。
シャルドネのような切れ味はなく、どことなくまったりとしているのがソーヴィニヨン・ブランの
特徴かと思うが、鋭角的なところはなく、妙に親近感がある。

開栓当日は、2~3時間で移ろいゆく変化が見られた。
盛り上がって舞い上がっていくのではなく、逆に落ち着いて着地してしまうような変化である。

2日目。
初日の変化から、もっと落ちているのかと思ったが、杞憂だった。
口に含むと僅かだが苦味が出てきている。
飲み干すとその苦味はうまくほどけて、旨味を含む余韻と変わる。

このワイン、完成度の高い洗練されたものとはかなり異なる。
親しみやすさがあるが、どこかパワーも秘めてもいる。

ウィーン郊外のグリンツィン(ベートーヴェンが田園交響曲を着想したところ)を散歩していて、
行き当たりばったりに飲み屋に入って、自家製のホイリゲをハシゴして飲んだときの新鮮さを
想い出した。

市場で高値の付いている、名の通ったドメーヌのワインや、ボルドーの大規模シャトーのワインの
ように品質の安定した大量生産品には、この感慨はないだろう。

新井さん個人を知る人、このワインができるさまを目の当たりにした人にとっては、
このワインを開けることは、大いに心振るわせる体験であるに違いない。
しかし、そんなことにはわたしは興味はない。

ヴィンテージを重ねるに従い、このワインが今後どう洗練性を身にまとい、説得力を獲得していくか、
ということの方が、よほど興味深い。
だから、毎年のヴィンテージを飲んでみたい、と思う。