



魚はイサキで、メインは鴨のもも肉をチョイスした。
ミネラル研究会と称する、ちょっとマニアックなワイン飲みが集まる飲み会を2年ぶりに開催した。
この会はすでに10年以上続いている。
メンバーは毎度の通り、関東からわざわざやって来るラブワインさんと、
地元の緑家さんとはるいちごさんとわたしの4人である。
全員15年以上の経歴があるワインブロガーだが、昔からワインを買い集めている。
個性的な飲み手ばかりなのだが、全員自分が一番常識人だと思っているところが面白い。
リースリングのコレクターの緑家さんのおかげで、いつもフランスワインに混じって
超希少なリースリングが存在するところが、このワイン会をミネラル研究会と称する所以でもある。
リースリングがなければ、ブルゴーニュのシャルドネやピノ・ノワールがここまで浮き彫りに
なることはない。
これがこの会から得られる貴重な体験であり、凡百のワイン会と一線を画するところだと思う。
恥ずかしながら、最近のわたしは美味しいものを食べたらそれだけで満足で、
「お酒は料理を引き立てるもの」という思いが強くなってきていて、
ワインと真っ正面から向き合うことがおろそかになっている。
だから、3人の卓越した知識と感性の持ち主と一緒にワインを開けると、
発せられる一言一言にしばしば感心し、新しい世界が見えてくる。
「ああ、自分は何とワインを深めない日々を送っているのだな」と今回も反省させられた。
場所はいつもの通り、本町のル・コントワール・ドゥ・グーで、
カウンターで気楽にフレンチを楽しめるというコンセプトの店である。
ワインを遠慮なく持ち込ませて頂けるのが有り難いが、料理も美味しいのは言うまでもない。
料理がいけていなかったら、貴重なワインが台無しだ。
料理の洗練度もますます上がってきており、仕事関係の知り合いともこの店をよく訪れている。
在阪5大学(大阪医大・関西医大・阪大・大阪公立大・近大)の現職教授全員を
連れてきたことがあり、関西医大の教授はその後もリピートして下さっている。

ワインは右から(ワイン名は緑家さんのブログからコピペ)
2007 Koenigsbacher Idig Riesling trocken Grosses Gewaechs
Weingut A.Christmann (Gimmeldingen/Pfalz),A P Nr 5 173 021 033 08
2010 Chevalier-Montrachet Les Demoiselles Grand Cru シュヴァリエ・モンラッシェ
Louis Jadot ルイ・ジャド(ドメーヌ)
2003 La Grande Rue Grand Cru Monopole ラ・グラン・リュ ヴォーヌ・ロマネ 特級
Domaine Francois Lamarche ドメーヌ・フランソワ・ラマルシュ
1993 La Tache Grand Cru Monopole ラ・ターシュ ヴォーヌ・ロマネ 特級
Domaine de la Romanee-Conti(DRC),No 12183
夏にもかかわらず、今回はシャンパーニュはなし。
ラブワインさんがクリスタル2008を候補にされていたそうだが、酸が強過ぎるとの予想で中止。
従って最初の白2本は、緑家さんのクリストマン GG 2007とシュヴァリエ・モンラッシェ2010の
比較になった。
緑家さんはワインを語る際、必ず土壌に切り込んでいく。
そこにラブワインさんがテロワールの位置情報と土壌を元にコメントされるのだが、
わたしとはるいちごさんは、ただ呆れて聴き入るばかり。
ラブワインさんによれば、シャルドネの飲みごろは、光にかざして色を見て判断するとのこと。
確かにブルゴーニュのシャルドネはピノ・ノワールより弱く、開け頃が難しく、
自分でもしばしば遅明けで後悔することがある。
クリストマンは「石灰質泥灰岩や粘土による保水性に富んだ土壌」のワインで、
シュヴァリエは「石とチョーク質の多い、標高の高い急勾配の畑」のワインなのだそうだ。
言われてみれば確かにシュヴァリエは風通しが良くて水はけの良い畑らしく、
14年経っても繊細な酸のエッジが立っている。
たおやかな余韻が長いのが心地よい。
開栓時期はラブワインさんの目論見通りだったが、まだ数年は状態の良さが続くと思われた。
一方のクリストマンは粘土質らしいまったり感があって、シュヴァリエと比べるとやや糖度が高く、
シャルドネとは質の違う余韻があって、しかも長い。
このワインが極めて貴重なワインであることは納得で、緑家さんのコレクション以外で
飲める機会など滅多にないだろう。
これこそミネラル研究会の真骨頂と言える。
一方のピノ・ノワールだが、今年こそはラブワインさんが悩むワインを持参することにした。
これまで何度もブラインドでラブワインさんにテロワールとヴィンテージをピタリと当てられている。
記憶しているだけでも、イヴ・ビゾー2002、アルマン・ルソーのクロ・サン・ジャック2004、
そして一昨年のルーミエのシャンボール・ミュジュニー1級 2006。
はるいちごさんがラ・ターシュを開栓することは事前に知っていたので、
ヴォーヌ・ロマネのすぐ隣の畑のラ・グラン・リュを選んだ。
2001、2002、2003のどれにしようか迷ったのだが、一番難しそうな2003とした。
ところがこれがやり過ぎで、焼けた年の2003は果実が強すぎて糖度が高く、
テロワールなどまったく分かりもしない。
「ええっ?これがヴォーヌ・ロマネ??」とまで飲み手に言わせるとんでもワイン。
ここまでジャミーだとは思いもしなかった。
これではただの最上級のブルゴーニュのピノ・ノワールで、面白くも何ともない。
ブルゴーニュの初心者が飲んだら感動もののワインに違いないが、
飲み手の創造力を塗りつぶす無神経なワインでしかない。
われわれは変人、じゃなくてミネラル愛好家なのである。
そして最後に開けたラ・ターシュの香りと、ほどよい果実と余韻に救われたのであった。
ヴィンテージが大きく違うとはいえ、隣の畑でここまで異なることに一堂驚愕した。
やはり最上のワインは飲み手の創造力をかき立て、テロワールに思いを馳せて会話を弾ませ、
幸せな時間を共有することをもたらすのである。
やっぱりラ・ターシュは偉大なのだと改めて思った。
これらのワインの現在の市場価格はとんでもないことになっているが、調べる気にもならない。
どれもこれも15年から30年前に購入したもので、当時は驚くほど安かった。
もはやワインの金額などどうでも良いのだ。
このメンバーとともに、残る希少なワインを今後も健康である限り開けて語りたい、
と思った貴重な夜であった。