「今何してるの」
「夕飯作ってるところ、簡単なものだけど」
「だから、色んな音がしてるんだね」
「うるさくてごめんなさい」
「君がいなくなって、およそ1週間になる」
「こっちに帰ってから、めまぐるしい日々よ。夜景を楽しむところなんかまったく行かない」
「僕も行かないよ、君達がいたから行ったんだ」
「仕事が忙しいのに、色々連れて行ってくれてありがとう。みんな喜んでた。最後の夜行ったレストランの味が忘れられないわ、ついでにあのテーブルクロスも」
「テーブルクロス?」
「鮮やかなターコイズブルー、凄くきれいだった。だけど、変な心地がしたわ。普通あんな印象的な色をテーブルクロスに使わないものよ、料理が褪せちゃう」
「そうかな」
「あの色を見てはっきり、ここは日本じゃない、って確信したのよね、変でしょ。」
「日本に行きたい」
「あなたは日本にまったく興味がない、って言ってたわよね」
「はっきり言って、無いよ。文化や経済も僕らがいずれ、とって代わるものだと思ってる」
「それ、私には言っていいけど、あまり推奨できる言葉じゃないわよ」
「一昨日から日本語を始めた。会社の近くに教室があってね」
「仕事忙しいのに」
「君が恋しい」
「今の"you"って単数?それとも複数形?」
「君」
「日本語を習ってどうするの」
「君を理解したい」
「日本にまったく興味ないあなたが、日本人を理解するっていうのは、なんとも難しい行為に思えるけど」
「もっと君を理解したい」
「それは電話で言うものなの?」
「次会うときに、君に日本語で伝えたい。最近日本人のインターンを雇ったんだ。彼から色々教えてもらおうと思う」
「それは」
「その目的は、彼は知らない」
「さすがプロジェクトマネージャーさんね」
「だから、この気持ちは受け取ってほしい」
「わかった、少しだけ頂く」
「次会うときには、あのテーブルクロスより君を魅了するから」
彼は電話越しにため息をついた。
「最後にちょっぴり悲しい話があるんだけど」
「何よ」
「フラれたんだ」

彼は人徳があり、アメフトに自分を追い込んだ青春の輝き、人を魅了する天真爛漫さ、幅広い人脈を持ち、親に(金銭的な)迷惑をかけずに国立のいい学校を卒業し、現在大手広告代理店に勤めている。
そう、彼の生い立ちは、何一つ文句が出ないものなのだ。

その彼が、
「なんで別れたの?この前、凄いラブラブだったじゃん」
2週間前私は彼と彼女に会った。仲睦まじく、見てるこっちが恥ずかしいほど幸せなオーラが出ていた。
男女の関係も一寸先は闇、なのだろうか。
「”この4ヶ月付き合ったけど、あなたを心の底から好きになることができなかった”って言われたんだよ、ちょっとひどくない?」
「彼女も好きになるように4ヶ月間トライしていたのね」
「もう自棄酒だよ、今ずっと焼酎ロックで飲んでる」
「明日仕事じゃないの?」
「もう激務だよ。だけど飲んでなきゃ今はやってられないよ」

突然の別れ話に彼は彼女を引き止めることができなかった。
今まで何度もお願いして付き合ってもらっていたからだ。彼女の決意の固さを感じ、彼は
「これからがんばれよ」
とだけ言い残し、立ち去ったのだという。

勉強は投資するだけ、努力するだけ(大抵は)報われるのだけれど、恋愛に関してはそうはいかない。いかに高いアクセサリーを投資しても、多くの時間を彼女に使ったとしても、それが裏目にも出る場合もある。
++++彼の恋愛結果++++
・4ヶ月彼女に投資した値段 (電話代、デート代等) 数十万円 
・失った愛 プライスレス
・フラれた後にかかるお金と人件費
→自棄酒、胃薬(飲みすぎによる)、癒しあう友達との飲み代等
+++++++++++++++++++


彼は「恋愛」というもので、どうしようもなく高い値段と時間を落としてしまっている・・・
いかに社会的に優れた人間でもこの恋愛の穴にハマってしまっている人は多い。
そのアンバランスが面白いっていうと不謹慎だけど、損得抜きにした際の人間の行動様式は、なんとも興味深いものに感じるのは私だけ?

「じゃあ、今度色々話聞くよ」
「本当?来週あたり飲もう飲もう、俺のおごりだから!」

愚痴を聞く人、プライスレス(笑)
上海の夜景に心を奪われたのだけど
あれは日常ではなく、どこか胡散臭い部分もある。
表面をやすりでこするとあっけなく全てがくずれそうな虚構を感じるのだけど
そういった空気と映画の世界は相性がいいんだと思う。

今回は「旅先での恋」。
言葉も通じない現地の人と、だけど共通しているのは「好き」という気持ち。
それだけでそのストーリーは出来上がってしまう。
この「旅恋」というのは一人旅で起こりやすいもので
右も左もわからない場所で出会う。
ノープランで行く私は、そういった出会いで生活を形作っていくので、必然的に旅恋はついて回る。
言葉も何も通じないところで、自分の立場とか虚栄を捨てきった裸の自分を許容してくれる人間がいたら
間違いなく恋になりますって。
ただ日常ではないので、最後は、帰りの航空券を捨てたくなるのを我慢して
旅で落ちた恋に終止符をうつ必要があります。
終わりが恋の舞台から去ることで、決定されている時点で、燃え上がるでしょ?