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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day136-あらすじ
父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。
コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。
父・莉子のことに加え、夫と通じ合えず孤独感に苦しみ、壊れていくむコオ。
離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続ける。
コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。また、
金銭的に恐ろしく莉子が甘やかされていたことを改めて知る。
支えのないままに家族と暮らすことに疲れ切ったコオは職場近くに一人引っ越し、
1日がかりの面会で、父の気持ちを聞き出すことにする。そして、初めて莉子は精神的に病んでいないのか、
と父に問うが、父はそれはない、といった。
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コオは、父にテレホンカードを買いに、病院を出た。個人病院だからか、紅病院には売店がついていない。
10分ほど歩いたところにあるコンビニエンスストアにいくと、若い店員がレジにいた。テレホンカードが欲しいというと、首を傾げた。
「テレホンカードってなんですか?」
見るからに高校生のアルバイト。物心ついたときは携帯電話が主流で、公衆電話自体を使ったことがないのだろう。公衆電話をかけるのに必要な磁気カードだ、と説明すると、やっと「ああ」といって、出してきてくれた。おそらく働くときに説明は受けているのだろうが、購入する人自体が少なくて忘れてしまったに違いない。病院についている売店でなら、こんなことはまずないと思うのだが・・・
コオは何とかテレホンカードを入手し、父の病院に戻った。でも、もうそろそろ帰らなければ。明日は仕事だし、少しはコオも体を休めたかった。父は目を細めてカードを受け取ると、すぐに莉子に電話をかけた。
「留守番電話になっちゃうんだけど。」
「え?ピーってなったら、普通に伝言しゃべれば録音されるから。」
父は忘れてしまったのか、そもそも本当に使ったことがなかったのか、留守番電話に向かって妙に丁寧に話し始めた。
「ああ、パパです。莉子さんにお願いしたんですが、本を読むのに拡大鏡を持ってきてください。」
もしかしたら、父の声を聴いて莉子が出るかな、ともコオは思っていたが、それはなかった。もっとも、莉子は2階の自室にこもっていれば、留守電の声は1階でしか聞こえないだろう。コオはそんな事を想っていた。
「パパ、私はパパが元気でいたい、と思うならリハビリに行った方がいいと思うっていったけど…」
電話が終わるのを待って、コオは帰り支度をしながら言った。
「でも、パパ自身が、リハビリに行くとか、やりたくないって思うなら強要はしないよ。一番はパパがどうしたいかだよ。莉子がどうしたいかじゃない。」
「ああ。わかってる。」
「そして、その希望をパパ自身が、ケアマネージャーの立石さんに伝えることだよ。」
「ああ。ありがとう。」
「・・・それじゃ、また来るね。」
父はコオが面会から帰る時はエレベーターまで見送ってくれる。点滴棒を引きずりながら、エレベータまで来てにこにことコオに手を振る父に手を振り返しながら、コオはずしりと胸が重たくなるのを感じていた。