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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day136-あらすじ
父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。
コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。
父・莉子のことに加え、夫と通じ合えず孤独感に苦しみ、壊れていくむコオ。
離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続ける。
コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。また、
金銭的に恐ろしく莉子が甘やかされていたことを改めて知る。
支えのないままに家族と暮らすことに疲れ切ったコオは職場近くに一人引っ越し、
1日がかりの面会で、父の気持ちを聞き出すことにする。そして、初めて父に問う
『莉子は精神的に病んではいないのか?』
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コオは、かなりオブラートに包んでいったつもりだ。
本当は『あの子、どう考えても頭おかしい!!』と言いたいところだ。
「うーん・・・そうだな・・・ピアノ講師をやめた時に・・・随分神経をやられた、という感じはしていたけど、病気ということはなかったと思う。」
「病院とか行ったことあるの?」
「いや、それはないな。ともかく、大分あのときは辛かったらしい。」
これだってハナで笑いたいところだ。
コオの職場は(多くの職場と同様に)男社会だから、同然のようにセクハラもあればパワハラもあったから。そして以前の職場でコオが長男の遼太を妊娠する前、激しいハラスメントと凄まじい残業で鬱状態になった時に
『そんなの、誰だって悩みは仕事にあるんだから、そんなこと言って辛いアピールしないで?』
と切って捨てたのは莉子だったではないか?あまつさえ、あのとき・・・いや、思い出すだけで腹が立つからやめよう。コオは(ふん)と小さく鼻を鳴らしただけだった。
「なんでも、音大出身じゃないから、というので差別されてたとか言っていた。だから、海外に留学したらどうか、とか、音楽の大学院に行ってみたらどうか、と勧めてみたりしたんだがな。」
(あの子がそんなことするはずないよ)とコオは心のなかで思った。
常に2番手の位置をキープすることが習慣のようになっていた莉子。姉の切り開いてきた道をたどり、でも、破天荒な姉のおかげで進みにくい、と文句を言っていた莉子。でも、自分で違う道をいくのは戦いに似ている。
(私は、お姉ちゃんみたいに崖に向かって突っ込んでくような生き方したくないから!)
コオは、莉子にそう言われたことを今も覚えている。
生き方を否定されたかのように感じたことも、痛みとともに、覚えている。
そう、それでも繰り返し這い上がるすべをコオは知っている。でも、何度這い上がることができたとしても、痛みがなくなるわけではないのだ。
母にも、父にも、それはわからなかったのだ、とコオは思う。