これまでの話、Battle Day0-Day86 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
*******Day86以降・前回までの話*********
父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。
ゴールデンウイークはコオの長男・遼太が帰省してくることになり、コオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだが、自分たち家族だけが楽しんだことにコオは罪悪感を覚える。そしてケアマネージャーと相談し、莉子にケアプログラムを提案するために出かける。
莉子は、外で父と話したい、といったコオを拒否し、ドアの内側に閉じこもるが、コオは庭側から父に声をかける。
莉子は、コオを追い出そうとするが、コオは莉子ではなく父に話をしようとする。莉子が狂い始め、母の言葉でコオを責め立てる。それを止めない父。コオは、実家を後にし、遼吾に状況を話すが、その時の遼吾の言葉に、絶望する。コオを理解できず、遼吾はコオを放置することを選んだ。
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遼吾は、マンションに戻ると自分だけで南側のリビングに行った。
コオは一人、北側の部屋にいた。日の当たらない北側の部屋は小さくて寒い。実家のように。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
コオは今だかつてなかったほど、遼吾が遠かった。
けれど、日常は容赦なくやってくる。
コオの持論の一つは、『自分が止まると世界が止まる』だ。だから、決してコオは立ち止まらない。過去の瘴気にやられて壊れかけていても、絶望で目がくらんでいても、壊れたまま、走ることをコオは好んだ。それはもしかしたらそのままコオはばらばらになってしまうかもしれない危険もはらんでいるのだが、それでも、コオは、自分が立ち止まることで世界を止めたまま死ぬよりは、走り続けているうちに倒れて死ぬほうがマシだ、と思っていた。
もっとも、そうしなければ子供の頃に、コオはコオの心象風景の中にある、【黒いモノ】に捕まってとっくの昔に死んでいただろう。
実際、コオは既にこのとき、自分の感情に溺れて【黒いモノ】に飲まれていたから、あとは、止まれば終わりだ、とわかっていた。
封印したはずだった過去と一緒に【黒いモノ】も勢いを増したけれど、コオの過去の経験は、動き続けることで、逃れることができることもある、ということを、コオに学習させていた。