これまでの話、Battle Day0-Day86 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
*******Day86以降・前回までの話*********
父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。
ゴールデンウイークはコオの長男・遼太が帰省してくることになり、コオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだが、自分たち家族だけが楽しんだことにコオは罪悪感を覚える。そしてケアマネージャーと相談し、莉子にケアプログラムを提案するために出かける。
莉子は、外で父と話したい、といったコオを拒否し、ドアの内側に閉じこもるが、コオは庭側から父に声をかける。
莉子は、コオを追い出そうとするが、コオは莉子ではなく父に話をしようとする。莉子が狂い始め、母の言葉でコオを責め立てる。それを止めない父。コオは、実家を後にし、遼吾に状況を話すが、遼吾の言葉に、絶望する
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遼吾は、マンションに戻ると自分は南側のリビングに行った。
コオは一人、北側の部屋にいた。日の当たらない北側の部屋は小さくて寒い。実家のように。
子供の頃、部屋をコオと莉子は一つずつもらえることになった。最初8畳の広い、南側の部屋がいい、といったら怒られた。そこは父と母二人の部屋に決まってるでしょ、それくらいわからないの?と言われてコオは恥じた。
たしかにそうだ、と思った。
そして、かわりにコオは一番狭い4畳半の部屋がいい、といった。やはり南を向いていて暖かい部屋だった。でも、母は、「高校生になったら、莉子ちゃんと交換してあげるから」 と言ってコオを北側の6畳の部屋にした。そして数年後。高校生になってコオは部屋を移るのを楽しみにしていた。狭くてもいい、庭の見える、部屋に移りたかった。小学校から中学生の間もずっと我慢してたのだ、やっと移れる。あのとき約束したよね?でもそのとき母は、やはり怒ったのだ。お前のために、とエアコンまでつけたのに、と。
私は選択肢を与えられているようで、与えられてなんて無かったのだ、とコオはその時思った。
寒い北側の部屋の、天井の模様も、聞こえてくる鳩の声も、大嫌いだった。南側の部屋の戸袋にコウモリがすを作ったとき、母は”お姉ちゃんじゃなくちゃできないから”と、コオにコウモリを捕まえて、巣を取り除くようにいった。言われたとおりにしたコオに、『気持ち悪い』といった。
あの、寒い実家の部屋から、私は逃げ出せた、と思っていたのに。
私はなんで生まれてきたんだろう。誰にも愛されないのに。
コオは、これまでなかったほどの孤独を感じた。それは、実際に一人きりでいるよりも、ずっとずっと、孤独だった。
コオは、既にその時自分の過去と感情に溺れていた。自力では出られないほどどっぷりと。そして、たしかに遼吾は、それを理解することもできなかったし、理解できないからコオを救い出すこともしなかった。