(あらすじ)
逃亡した殺人犯を追って、酒蔵で有名な「白蛇村」にやってきた剣持のオッサンと俺と美雪。
ここの蔵元の白神家に、2か月前に転がり込んだ自称「次男」の白頭巾の男が怪しいと睨んだ。
ところがその夜、この白頭巾の次男「白神蓮月」が、鍵のかかった一番蔵の中で死体となって発見。
同時に蔵元長男「白神左紺」が姿を消した。
二つしかない蔵の鍵の一つを左紺が持っていたことや、その後見つかった血のついた『櫂棒』が左紺のものだったことから、蓮月を殺したのは左紺ではないかと思われたが・・・
その行方不明となっていた白神左紺が、蓮月と同様に酒樽の中で死体となって発見された。
<現場検証>
鑑識の調べにより、被害者は白神左紺に間違いなく、
左紺の死因は、左紺の頸に突き刺さっていた櫂棒の折れた柄の部分らしい。
金田一は、この状況を見て
「左紺は自殺したのか?・・・それとも他殺・・・・?」
と、まだ疑問が残っていた。
ここで黒鷹さんが、
「刑事さん、もうそろそろ蔵に入ってもいいかね?」
「早くしてくれ。こっちは仕込みの途中なんだ。」
と言い、
剣持警部は、
「ああ!どうぞ!
調べはあらかたついたんで・・・」
と言い、黒鷹さん達酒蔵の職員達は、酒の仕込みの為に蔵の中に入っていた。
話を聞いていた県警の刑事さんは、
「自分とこの蔵元の長男が死んだってのに・・・まるで他人事っすね!」
と呆れ、
「まあ酒は生き物だし蔵元の財産だ。
人が死んだからって酒をダメにするわけにはいかんだろう。」
と剣持警部は言った。
数分後に剣持警部は、関係者達に
「警察の見解としては、今のところご長男の左紺さんの死は、自殺・他殺の二つの線で調べておりますが、状況から考えて自殺の可能性が高いかもしれません。」
と言い、殺された次男・蓮月と長男・左紺の父親の音松さんはショックを受け、
白蛇旅館の女将・鏡花さんが音松さんをなだめていた。
この剣持警部の言葉に黒鷹、鷺森、蒼葉だけでなく、金田一と美雪の2人も何も言うことはできなかった。
<3人で話し合い>
金田一は剣持警部に、
「・・・なあオッサン、さっきなんで『左紺は自殺の可能性が高い』なんて言ったんだ?」
と聞かれ、
「いやぁ、この場合そう言うしかないだろ?
今回二人の死体が見つかった一番蔵の鍵は二つだけ。
一つは、蔵元の音松が肌身離さず持っていて、
もう一つは、死んだ左紺のポケットの中から見つかったんだ。」
「普通に考えれば、犯人は死んだ左紺でなければ音松ってことになるだろうが、
足の悪い彼が、二人も殺して死体をタンクに放り込んで現実的じゃないだろ!」
と言い、
「確かにそうだよな・・・・蔵のたった一つの入口は醸造所の作業場の中にある。
作業場には結構人がいる時が多いから、人目を避けて出入りするのは大変だ。」
と金田一は言い、
「犯人が左紺なら、次男の蓮月とは依然、跡目争いがあった訳だから、
殺しの動機も十分あるだろ。」
と言った。
美雪も、
「そうよね。ましてやこんな旧家の子息だもの。
人には言えない確執あっても不思議じゃないわ。」
「きっと昨日、左紺さんが仕込みが終わって蔵から出た後、
聞かれちゃまずい話があるって、こっそり一番蔵に蓮月さんと二人で行ったのよ。
そこで話が拗れて言い争いになり・・・
カッとなった左紺さんは、手元にあった櫂棒で蓮月さんを殴り、
彼はそのままお酒の入ったタンクにドボン!
左紺さんはこらしめるつもりで放っておいたら、
いつまでも上がって来ないので、酒を抜いてみたら・・・
蓮月さんは、すでに樽の濁り酒を詰まらせて窒息死してた!」
「その時、気が動転してその場に鍵をかけて逃げたけど、
後からやっぱり逃げ切れないと悟った左紺さんは、
『どうせ死ぬなら思い入れの深いこの蔵で、弟と同じように・・・・!』
と自ら命を断った。・・・って感じじゃないかしら!」
とイキイキとした美雪の発言に、
「ノリノリだねぇ、美雪ちゃん!」と金田一は軽く呆れ顔。
剣持警部は、
「まぁ筋は通ってるな!七瀬君。
左紺の死亡推定時刻は、発見される2時間から1時間程度前だとわかっているし、
この時間帯だと、比較的見回りの目も緩いから、自分一人こっそり蔵に忍び込むことくらいは、朝飯前だろう。
となると、これで解決かな?」
と言った。
金田一は黙って考え込み、
「ちょっと待ってくれよオッサン。」
と剣持警部に言い、
「ん?どうした?金田一、何か疑問でも?」
と言うと、
「いや、"筋が通ってるからそれが答え"なわけじゃないだろ?
もし真犯人がトリックを仕掛けてるなら、筋書きも織り込み済みだろうし。」
と、指摘。
その意見に美雪は納得するが、剣持警部は
「しかし左紺が犯人じゃないとしたら、どうやって蓮月はタンクの中に突っ込まれてたんだ?」
「あの時、仕込みを終わって蔵の外に出た後、俺らも含め、もう一度蔵の中をくまなく見回ったんだぞ?
もちろん、その時全てのタンクに酒は入ってたし、何の異常もなかった。
それから蔵に鍵がしっかり掛けられたのも、俺ら全員が確認してるんだ。
あの後、閉じられた蔵の中に出入りできた人物が蔵の鍵を持ってる左紺と音松以外にいたのか?」
と言った。
ここで金田一が、
「蔵から出て行った直後に左紺が襲われたのだとしたら?」
という、ある一つの仮説が浮かんだ。
「あの時、仕込みを終えて一番蔵を出た左紺をどこかに隠れてた犯人が不意打ちを食らわせ、気絶した左紺から鍵を奪えば、犯人は鍵のかかった一番蔵に自由に出入りできるじゃないか!」
その金田一の仮説に美雪も、
「そっか!それなら左紺さん音松さん以外の人物でも可能ね!」
と、納得する。
しかし剣持警部は、
「だが、そうなると気絶した左紺はどうなる?
家のどこかに隠してたとしても大人一人。
誰にも見つからず、あの蔵に運び込むのはなかなか難しいぞ。」
と、疑問を金田一にぶつけた。
「・・・でも不可能じゃないわけだし、
その線で全員のアリバイ調べてみない?」
という金田一の考えに、剣持警部は承諾。
「じゃあ幅を取って、左紺が蔵を出て来たのを我々が最後に目撃したその後から死体発見までの間の全員のアリバイを洗ってみよう。」
剣持警部は、事件の関係者達にアリバイを聞きこんでいた。
傍で聞いていた金田一と美雪。
「これで少しでも犯人が絞れるかな。
ねぇ、はじめちゃん?」
と美雪が金田一に聞くが、金田一は一言も喋らず、彼はこう思っていた。
「イヤナカンジガスル・・・
やっぱりこの事件は一筋縄じゃいかない。
真犯人『白蛇』の邪悪な赤い目が、
俺達の行動を冷ややかに見てる気がするぜ。」
真犯人『白蛇』は、
「なるほど・・・ここでそのアリバイを調べに来たか・・・・!
なかなかよく考えてるね警察の皆さん。
だが、そんなことじゃ何もわかりゃしないよ?
何しろこれは・・・・『白蛇様の呪い』なんだからね・・・」
と、一人ほくそ笑んでいた。
<音松さんと、今は亡き妻二人と、三男・黄介について>
金田一は、気分転換に聞き込みを行うことにした。(美雪も同行。)
彼が聞き込みたい相手は、白神酒造の社長であり、殺された長男・左紺と次男・蓮月の父親である白神音松。
金田一は、音松に"亡くなった二人の妻のこと"について聞いた。
「いきなりこんなことを聞いてすみません、音松さん。
でも今回の事件は、やっぱり過去の出来事が、なんかしら絡んでると思うんです。」
と言うと、
「わかりました、お話しましょう。」
と音松は承諾した。
「一人目の妻・天音は隣の集落出身で大人しい性格だった。
30年前、長男・左紺が幼い頃、山菜採りに行って蛇に噛まれたんですよ。」
美雪が、
「病気で死んだわけじゃなかったんですね。」
と聞くと、
「その後、すぐ病院に行って血清も打ったよ。
ところが、その血清が合わなかったのか、高熱で苦しみだしてね。
白蛇様に取りつかれ、うなされるようにして亡くなったよ。」
と、音松は答えた。
金田一が二人目の妻について聞くと、
「天音と違って都会的な女でな、
日本酒人気で蔵に人が来るようになって、『旅館をやろう』と言いだしたのもあれだった。
それで、古い母屋を改装して作ったんだが、
その時、敷地内の小さな祠が邪魔になってな。
ちゃんと吉日を選んで儀式をすればよかったんだが、鞠乃は『それじゃ間に合わない』と言って、ろくな式もせず取り壊してしまってな。
まあ本当に小さな祠だったから、家の者も気にしてなかったんだが、
旅館だ出来てから一年後だから、七年前のことだ。
蔵の見回りをしてた銀三さんが、首を吊られて死んでる鞠乃を見つけてな。」
と音松が言ったところで、金田一が
「黒鷹さんが見つけたんですか?」と聞くと、音松は「あぁ。」と答えた。
「警察の見解は、水に濡れた渡り廊下から足を滑らせ、
とっさに掴んだホースが運悪く首に巻きついて首吊り状態になったということだった。
村中の皆が、『白蛇様の呪い』だと噂しとったよ・・・そして今回も・・・」
と、音松は右手で顔を覆うほど、落ち込んだ。
そして金田一が、音松に"行方不明の三男・黄介さんについて"と質問すると、
音松の表情が変わり、
「黄介のこと・・・聞いたんですか・・・」と音松は言い、
「・・・・ええ・・・・その・・事件を起こして・・・」と、金田一も言い辛そうだったが、そう答えた。
音松は、
「私は、あいつが何を考えてるか全くわからない!
実の兄の蓮月を殺そうとするなんて・・・・
あんな奴は私の息子でも何でもない!!」
と、強い口調で言った。
しかし途中で気分が悪くなったのか、
「すまないが、気分が悪い。帰ってくれないか?」と金田一と美雪の2人に言い、
「す、すいません!はじめちゃん、帰るわよ!」と美雪が言い、金田一と美雪は部屋を離れた。
<感想>
今回の金田一にも、出ましたね~美雪ちゃんの推理が。
なんだろう・・・美雪ちゃんの推理は、ちょっとだけ笑える。
いい線いってるのにな~。
でも前回も言ったように「七瀬美雪の事件簿」があってもおかしくないような・・・
まあ多分金田一のサポートありで。
でも気になったのは、音松さんの二人目の妻が首を吊られて死んでるのを見つけた黒鷹さん。
「首を吊って死んでる」と報告するのが普通なのに、「首を吊られて死んでる」って言っちゃってるから、「あれ?」ってなりました。
ここにきて黒鷹さん犯人説浮上。
今回の話の感じだと、第3の事件が起きそうな予感。
次回の金田一が楽しみです。
