前回の続きです。



さて今週、私の身に降りかかった予期せぬ闘い。


なお夫カンタロウと彼の職場の新人Y子の闘いは相変わらずのようで、もう1人のベテラン女性のイライラはマックスで口もきかなくなったようだが、Y子は全く気づいていない様子。



俺はと言うと、今週職場でOJT(On  the  Job  Training)があった。50歳にもなって今さら感が半端なかったけど業務命令なので渋々。



俺の担当者として現れた老婆。

本当は担当してくれる「講師」であり「先生」なのだが、一目見て「老婆」としか見えなかった。



サラリーマンですもの、名刺交換をした。

もらった名刺に書かれていた彼女の所属先の住所は偶然にも俺の自宅のすぐ近所だった。なので、

「あぁ、僕、かなり近所に住んでますよ」

と笑顔で挨拶をした。


老婆はにこりともせずぼそっと、

「普段、そこには勤めていないんでね」

ぶっきらぼうだなと感じた。



名刺にはもちろん彼女の氏名が書いてあるのだが、名字はメジャーだけど下の名前は見たり聞いたことがないような珍しいものだった。

なんて読むんだろう?


「T子って読むんですよ、ヒャヒャヒャ」

俺の心を見透かすように言ってきた。

風貌は『白雪姫の毒リンゴ魔女🍎』をイメージしてもらうとかなり正確に伝わるかと思う。



さてこのT子、俺が言うこと全てを否定し、考えを問われたので述べると頑なにダメ出しをしてくる。



もしかして…

頭によぎったのはかつて就活なんかで存在した「圧迫面接」なのだろうか?


それとも俺をわざと怒らせるような言い方をして未熟さを暴こうとしてるのかしら?



そう思うと、何とかしてこの魔女老婆T子を退治してやりたいと思った。

だけどT子は百戦錬磨なのだろう。俺の思いを見透かしたように、ジャブを放ちつつ時折ニヤリと笑い、「絶対にアンタには主導権を渡さないよ、ヒャヒャヒャ」と言ってるみたいだった。


何だか読心術で俺の心を読まれているような気分で圧倒的に不利だった。

だけどカマの意地を見せてやるんだわ、どうにかしてT子のペースを崩そうと考えた。




実は職場での対人関係で、いちゃもんやパワハラまがいの言動を受けた時にそれを退ける一撃必殺技がある。

それを使えば間違いなく勝てる技だ。



もう10年以上、使ったことはない。だけどT子を退治するために久しぶりに繰り出すことにした。



それは本当はブログに書くようなことではないのだけど、ニヒルな笑顔で微動だにせず相手の目を8秒間見続ける、というものだ。もちろんまばたきなんかしない。一瞬たりとも目をそらさない。



氷固まったように相手の視線を撃ち抜くイメージ。ただ冷たい笑顔でひたすら相手を無言で見続けるのだ。



実は10年前くらいに因縁やクレームをつけてくる女があまりにぎゃあぎゃあうるさいので、この技を使ったところ、ヒィっガーンと声をあげて退散していった。



T子のジャブが一段落した時、口を歪めて口角を上げニヤリとした。

そして微動だにせず黙ってT子を見続ける。



T子は一瞬目をそらしたけど、俺は逃さない。ひたすら見続ける。


「まぁアタシの考えが必ず正しいわけじゃないですけど」

初めてT子のペースが一瞬乱れた。




そしてT子のペースが崩れたのか、そこから先は表面上和やかにOJTは進んだ。



正直に言うと、今回はT子には勝てなかった。必殺技を繰り出して辛うじて引き分けに持ち込めたかどうか程度だった。



「今日はここまでにしましょうか。じゃあ次回は8月にこの続きをしますよ」

この不毛な闘いがまた夏に再戦することがT子から高らかに宣言された。



「はい、お待ちしてます。本日はありがとうございました」

と返事はしたけど、ものすごく消耗したなと感じた研修だった。


心理戦というのはこういうものだろうか。






「カンちゃ~ん、今日の研修で変な婆さんに絡まれたショボーン

カンタロウに愚痴メールした。


カンタロウからの返事は、

「おやすみ、また明日」

だけだった。カンちゃんお得意のまるっきりスルー。



T子とカンタロウ、俺にはどちらも手強いでござる。

カンちゃんはともかく、T子との再会するまでに新しい必殺技を考えなければいけないプンプン