衰退業界というけれど | がいちのぶろぐ

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このブログで、折に触れて取り上げている経営情報誌「理念と経営」の11月号は、「『シュリンク業界』を生き残る知恵」という特集を組んでいた。

 

 

 

シュリンク業界とは、早い話が〝衰退産業〟という意味だ。特集では、屋根瓦製造、表装業、それに浴場業で成長している企業を取り上げている。

 

日本瓦の屋根瓦、床の間などを飾る掛け軸や屏風、和室で用いる襖張りなどが仕事の表装業、町にあるお風呂屋さん。どの業界も、衰退していることは言われなくてもわかる。

 

しかしその中でも、当然だが人並み以上に苦しみながらも、成長を目指して成功をしつつある企業だってある。そうした企業は、何を考え、どんな工夫をしているのか。

 

 

 

例えば老舗の屋根瓦作りの企業は、単に瓦を生産する企業ではなく、〝土と火と釉薬が作り出す焼成技術を持つ企業〟という視点で、商品づくりと取り組み成功している。

 

この視点に立てば、食器を作ろうと、サイズの要求が厳しい壁タイルを作ろうと、他ではまねができない独自の焼成技術を使う、という利点で製品づくりが出来るというのだ。

 

表装業では、貴重な古美術品の掛け軸などの修理を引き受けた時、これをカビから守る防カビ材の知識と、それを塗布する技術を持っていた。これを応用することを考えた。

 

家業を引き継いだ若い社長は、壁面や天井など既存の複雑な形状の建築にも、そこへ抗菌・防カビ材の塗装を請け負うなら、これまで培ってきた技術が生かせると考えたという。

 

こちらも家業だった、町のお風呂屋さんを引き継いだ若い代表者は、浴場を経営すると考えるのではなく、温浴施設もある空間を用いる、という視点から経営を行って来た。

 

この方によれば、浴場は減少していても、各種温浴施設を含めれば、決して減少の一途というわけではないそうだ。確かに、最近はまたサウナ・ブームにもなっている。

 

その上に、浴場の脱衣場などで落語会を開く、といったケースも耳にすることもある。これが、浴場の空間施設という面になる。

 

また、〝裸の付き合い〟という言葉があるように、人と人をつなぐ場としてこの空間を捉えると、新たな活用方法も見出せるのではないか、とも考えているようだ。

 

このように、一見すると衰退産業であっても、それを別の視点や考えから見直せば、新たな取り組みの方向性が見えて来ることもある、というのがこの特集の趣旨のようだった。

 

そこで、これらの事例のまとめとして、経営エッセイストの藻谷ゆかりさんは、「経営革新によってシュリンクから脱却している」と言われている。

 

さらに、イノベーションを実現するための、3つの〝キー・コンセプト〟を掲げておられた。その3つとは、「ビギナーズ・マインド」「増価主義」「地産外招」だという。

 

藻谷さんの説明では、「ビギナーズ・マインド」とは、世阿弥が「初心忘るべからず」と言っているように、「初めてのような、新しい視点で見る」ことだ。

 

さらに世阿弥は、「離見の見」という言葉も残している。「さまざまな角度から見る観客の視点で、自分の姿を」見ることも必要だ、とも述べている。

 

これは新しい視点だけでなく、「視野を広げる」ことであり、そのためには「若いスタッフの考えや意見に耳を傾けるのもよい」と説明しておられる。

 

次に「増価主義」とは、「時を重ねて、さらにその価値が積み重なって行く」というコンセプトだ。「老舗が尊重されるように、年月を経て来たものほど価値がある」という。

 

そして「地産外招」というのは、「地域資源を活用して、域外から顧客が買いに来る」状態を作り出すことだ。この点は、私も以前に「地産外商」という考えを聞いたことがある。

 

〝地産地消〟であれば、〝輸送のためのCO2 排出が減る〟という考え方は聞くが、一次産業以外の場合は、小さなエリアでは右肩下がりにならないか、という問題がある。

 

ましてや、猛速少子化・超高齢化社会を迎えるのだ。そこで地産地消〟では、お先真っ暗ということにも成りかねない。だから、藻谷さん流に言えば「地産外招」となる。

 

どれくらいの範囲を想定するかは商品・サービスにも拠るが、〝地域〟や〝想定範囲〟の中だけを見るのでなく、外部と取引を行うための方策を考えれば、「地産外商」ともなり得る。

 

また今回の特集の最後に、藻谷さんは面白い発想をしておられる。それは「衰退産業に身を置く企業は、価格競争に巻き込まれる懸念はほとんどありません」というのだ。

 

この点は、特集の事例で言えば、屋根瓦製造業が他の商品を生産するとなれば、そこに競合もあり、価格競争もあり得るかも知れない。これは、新たに選択する内容にもよるだろう。

 

また浴場を空間利用事業と考えれば、これも、例えば小ホールや少し大き目のスペースの飲食業ともバッティングするかもしれない。

 

だから、そこでは価格競争とは言えないまでも、やはりなにがしかの競合は起こり得ると思う。でも黙って衰退を待っているよりも、はるかに良いことなのは間違いない。

 

そして何よりも、「長い時間を経ていること、暮らしに根差し息づいていること」の価値に対して、「ファンは必ずいます」と藻谷さんも断言している。

 

いつものことながら、「理念と経営」誌は一般書店では手に入り難い雑誌だから、見本誌を申し込まれると良い。決して、ステルスマーケティングではないけれど良い雑誌だから。

 

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