「両利きの経営」という視点に考えさせられた | がいちのぶろぐ

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このブログで時おり紹介している経営誌「理念と経営」の4月号に、現在、最も旬な経営学者である早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が登場しておられる。

 

 

 

入山教授は「Ambidexterity(両手利き)」というアメリカの経営学用語を、「両利きの経営」という日本語に訳し、その内容を紹介してこられた方である。

 

「理念と経営」誌の4月号の巻頭対談では、入山教授と神戸ポートピアホテルの中内仁社長が対談されていて、その中で入山教授ご自身が「両利きの経営」の中味を解説しておられる。

 

 

(理念と経営4月号より)

 

許可なくパクってしまうことをお許しいただきたいが、「『両利きの経営』とは、イノベーションを起こすには『知の探索』と『知の深化』の両方が必要」だと言われる。

 

ここで「知の探索」とは、「自分から離れた遠くの知を幅広く探索し、自分の持っている知と組み合わせること」だという。「知の深化」とは、「組み合せた知を深掘りすること」だ。

 

そして入山教授は、「多くの企業は『知の深化』にばかり偏って」しまうと述べる。「うまくいっていることを深掘りするほうが、新しいことを探索して挑戦するよりも、失敗が少なくて楽」だからと。

 

こうした偏りを「コンピテンシー・トラップ」と言うそうだ。そしてこの「コンピテンシー・トラップ」に陥れば、「イノベーションは生まれません」と述べておられる。

 

さらに「〝遠くをはかる者〟は、生き残る 今こそ、『両利き経営』へと舵を切れ」という特集ページでは、「経営者の知の探索は広く、広く」と題して、さらなる解説をしておられる。

 

 

 

そこで入山教授は、「イノベーションというと難しそうですが、その原点は既存の知の組み合わせというシンプルなもの」だと言われる。

 

しかし「既存知の幅が限定」されるので、「アイデアもすぐ枯渇」する。だから「大事になってくるのが『知の探索』」ということになる。

 

しかし、「現在やっている仕事の深掘りなら、すぐにその効果が実感」できるために、「多くの企業は『知の深化』にばかり力を入れる」という。

 

ではどうすれば良いのか、ということになる。入山教授は「イノベーションが起こせる組織に変える一番いい方法は、トップを変えること」だと、あっさりと言ってしまう。

 

中小企業の経営者である親とは別の会社で、これまで仕事をしてきた子どもに「あえて社長をやらせて」みれば良いと言われる。

 

そうすれば、「それまで外にあった知を社内に持ち込むことに抵抗がないので、知の幅が一気に広がります」と、トップ交代の効用を説いておられた。

 

こういったトップ交代の機会がないのなら、「社長が覚悟を決めて認知の幅を広げる」ことになる。その場合「お薦めは、これまでと会う人を大きく変える」ことだそうだ。

 

確かにそうだろう。今まで出会わなかった人と出会うようになれば、新たに出会った人は、きっと今まで会っていた人たちとは違う話をするだろう。「その体験が認知の幅」を広げる。

 

結果として「好奇心の赴くままひたすら知の幅を広げていく」というのが、「最も効率がいいやり方」だと、入山教授は述べておられる。

 

ただし「知の探索はすぐに結果に結びつかない」から、「モチベーションが下がって」くる。そこで「必要になるのがビジョン」だという。

 

経営者は、「この会社で何をやって価値を出したいのか」ということを、「腹落ちするまで考え抜く」ことが必要だと説明しておられた。

 

しかも「そのとき大事なのは、視線を30年先に向ける」ことだという。そうしないと、「現在の姿に引っ張られて視野が狭まってしまうから」だと解説されていた。

 

私が今月号の記事を読んで、入山教授が説かれる「両利きの経営」について理解できたことは、〝今までの延長線上にある「知の深化」はとっつきやすい〟というのが一つ。

 

だけど、それだけではいずれ中味が擦り切れ、枯渇して来る時が来る。そうならないためにも、〝今までの枠組みをあえて外しつつ、面白そうと感じる「知の探索」〟を行う。

 

もちろん、ただ「探索」と言っても、どこに転がっているかもわからない。だから、今までとは異なる人と出会い、話す機会を自ら積極的に作って行く必要がある、ということだ。

 

人と出会うことは、多くの場合に新しい刺激を得られる機会となる。だから、今までとは違う誰かと出会える機会は、特に大事にしないといけない。

 

これは「両利きの経営」という視点だけでなく、私が関わってきた「半径3kmの旅」でも〝地域の人と出会う旅=旅する人にとっての参加と余白〟という視点に立っている。

 

これも広く捉えれば「知の探索」ということに他ならないと思う。その視点は、大坂大学の前総長で哲学者の鷲田清一氏も、以下のように述べておられる。

 

「知らない街を見る、味わうには、そこの生活を知ることが大事」で、「ばったりなにかに出会うのが一番」だと(「京都の平熱 哲学者の都市案内」p.242、講談社学術文庫)。

 

企業経営という視点であれば、入山教授が説かれるように「両利きの経営」となるだろうし、また他のテーマから見れば、「知の探索」と「知の深化」をそれぞれの視点で捉え直すことも可能になる。

 

今回の「理念と経営」誌の記事も、いろいろと勉強させてもらえる内容だった。

 

いつものことだが、この経営誌は普通の書店には置いてないことが多い。見本誌が御入用であれば、下記にご連絡をいただければと思う。ステマだと思われてもけっこう、良いものは良いと言いたいので。

 

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