どんな企業のテレビCMだったか、〝会議に出席中のOL〟という設定の指原莉乃さんが、ホワイトボードの前で話す〝できる上司〟風の男性が使った〝横文字言葉〟の意味が解らず、机の下でこっそりとスマホで調べる、というシーンがあった。
今やテレビで見ない日はないくらいに活躍しているタレントの指原さんが、その時OL役としてこっそりと調べていたのは、「コア・コンピタンス」という言葉だった。
わかるなぁ、その気持ち。今ではビジネス用語の中で、わりと一般化している言葉だとは思うが、それでも本当にわかって使っているのだろうか、と思わされることも少なくない。
コア=核、コンピタンス=競争、である。例えば「わが社のコア・コンピタンスは、精密に仕上げる技術力だ」と言った使い方になる。「競争力の中核・中心となっていること」と言えばいいだろうか。
最近は、特にコロナ禍の記者会見での小池・都知事などが、〝横文字言葉〟を頻繁に使うようになってきて、まさに〝横文字言葉〟の乱れ打ちという感じがしている。
何でそこまで〝横文字言葉〟を使わないと説明できないのかと、私は聞いていて苦々しく思っている。その元祖とも言える言葉は「クラスターの発生」だったように思う。
統計分析の手法を示す言葉の一つに「クラスター分析」というものがある。何らかの状況の説明となる数字を解析し、特性の似ているもの同士を集めるために用いられる手法だ。
つまり「クラスター」とは、平たく言えば何らかの「集団」とか「集まり」と呼べばいいだろう。だから、コロナ・ウィルスの場合は「集団感染」とか、「感染した集団」を表わしている。
これまでだったら、「集団感染が発生した」と言えば済んでいたと思う。それを何でわざわざ「クラスターが発生」と言うのだと、使われ始めた当初から変な気分になっていた。
「Go Toトラベル」という言い方だって、明らかにおかしな英語の使い方である。無理に〝横文字言葉〟にしようとするからこんなことになる。「旅に出よう」のどこがダメなのか。
「旅行推進キャンペーン」だったら、誰にでもすぐわかる。それをあえて「Go TOトラベルキャンペーン」などと、人を小馬鹿にしたような言葉を使って、と思ってしまう。
〝小うるさい〟高齢者としては、こんなことにいちいち腹が立ってくるのだ。そう思っていたら、とうとう『真打』のような〝横文字言葉〟が登場してきた。
「ワ―ケーション」だそうだ。「Work(ワーク)」と「Vacation(バケーション)」をつなぎ合わせた造語だと言うではないか。「仕事」と「休暇」が一つになっているではないか。
「バカも休み休み言え」と、人生幸朗師匠に怒鳴っていただきたい。「責任者ッ、出て来~い」と言っていただきたい。「仕事しながら、休暇ができるかッ!」と言ってもらいたい。
そんな言葉など、あほらしくて聞いていられるかと思っていたら、今日配信されていたダイヤモンド・オンライン誌で、この「ワ―ケーション」が取り上げられていた。
作家の室伏謙一氏が寄稿されていた、「温泉地などで遊び・働く『ワーケーション』の発想がダメすぎる理由」と言う記事だった。〝おぉ、これは〟と思って早速読んでみた。
そうすると、「ワ―ケーション」という言葉が使われるようになった〝そもそも〟が書かれていた。コトの始まりは、大都会からの〝移住〟がキーワードだったらしい。
「いきなり移住しなくてもいいから、(中略)『実際にその土地で仕事をすることを体験してもらおう』と始まったのが、『ふるさとテレワーク』や『お試しサテライトオフィス』」だった。
「地方都市にWi-Fi完備のコワーキングスペースのような簡易なオフィスを設け」、そこを「大都市の企業の出先と位置付け」て、「希望する社員を一定期間(中略)ではあるが実際に移住してもらう」という考えが出て来たらしい。
「それに当たって使われるようになってきたのが、ワーケーション」という言葉だったというのだ。
つまり、「『お試し移住』の人数を増やすため、人が来てくれない地公体が来てもらえるようにするための『イメージアップ作戦』の手段として使われた」言葉だったらしい。
だから、「当初は観光という意味は含まれず、そのコンテクストでも使われてはいなかった」と、「ワ―ケーション」という言葉の〝そもそも〟を説明されていた。
それがこの間の政府の「Go Toキャンペーン」などと絡んで、「それが拡大解釈というか『都合のいい使われ方』につながっていった」ということだ。
そもそも言葉としての「ワ―ケーション」とは、大都会にある企業が、無理に都会のオフィスでなくても仕事ができる従業員の場合は、環境さえ整っていれば、希望者は〝サテライトオフィス〟としてどこで働いても良い、という感覚だった。
それが〝働きながら休暇も楽しむ〟という中味へと、勝手に言葉の中味を変更されて使われるようになった、ということらしい。こんなに意味を変えては〝アカン〟だろう。
筆者の室伏氏も記事の最後の部分で、「経済的にある程度余裕があって、地方に行っても支障なく出来るような仕事をしている人のためのものということ」だと述べておられた。
だから、「そうした人が求めるサービスや食等が供給できるところが行き先、滞在先として選択されることになる」とも。
つまり、「経済的にある程度余裕」のある人が、大都会を離れて仕事をしようと考えるのだから、やはりそれに見合った場所でないとダメだ、ということだろう。
だから「ワ―ケーション」とは、ちょっとした休暇を利用して〝温泉三昧〟と、ついでにその旅館でパソコンを使ってリモートワークをするということではない。
ましてや、昼間は家族でハイキングやBBQを楽しんで、夜にちょこっとだけパソコンに向かって仕事をする、ということでは決してないのだ。
政府としては、なんかそれらしい〝横文字言葉〟を使って、私たちに勘違いさせてでも「Go Toトラベルキャンペーン」に巻き込みたいだけなのだろう。
〝何だかなぁ〟と、またため息が漏れてしまいそうな気分になっている。