空洞化祭囃子の裏側で | がいちのぶろぐ

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どんよりとした梅雨空の下での、3連休のスタートになっている。雨雲レーダーでは、九州の中央部辺りにまた激しい雨雲があるようだ。この雨雲の塊りの東の端が、京都あたりという感じだ。

 

京都では、17日の山鉾巡行に向けて、昨日はそれぞれの鉾町で「曳き初め」が行われた、町内の方が中心になって、鉾を引いて少し動かしてみて、異常がないか点検をする。

 

同時に、巡行の当日に鉾の綱を引くのは、若いアルバイトの人たちだから、町内の人たちが鉾を引けるのは、この「曳き初め」の時だけということでもある。

 

 

 

昨年度に行われた、京都市主催の「みんなごとの町づくり推進事業」の公開講座の折りに、こうした山や鉾がある町内会の方が、事例発表として登壇した。その発表は、「バーチャル町内会」という位置付けの活動報告だった。

 

 

 

京都市の中心部に位置する山鉾町では、住民の数が急速に減少している。つまり祇園祭を取り仕切る「町衆」が、いなくなっている。山鉾町はドンドンとオフィスビル街化し、住民は町を離れている。

 

だから、祭りの担い手は全て町内の住民、という考え方を捨てて、祭りを手伝う人手を外部から募集する活動を始めている、ということだった。これが「バーチャル町内会」ということだ。

 

 

 

鋒の上に乗って鉦や笛を担当し、山鉾巡行に欠かせない「囃子方」だって、それなりの人数が必要になる。しかも1日や2日で、急に鉦や笛ができるものではない。

 

「コンコンチキチン、コンチキチン」と、上手く囃子のリズムが取れるように稽古を積む必要がある。そのためには、「バーチャル町内会」に参加したとしても、前もって鉾町へ出向いて稽古をすることが欠かせない。

 

 

つまり、サラリーマンの「バーチャル町内会員」であれば、仕事が終わった後で、毎夜のように鉾町へ駆けつけて稽古をし、ようやく囃子方になれるということだ。それは、言うほど簡単なことではない。抜けられない仕事だってあるだろうから。

 

また学生なら、京都の大学に来て、このバーチャル町内会に参加しても、4年間が過ぎて、就職で京都を離れることも多い。だから、学生の場合は順繰りにメンバーが入れ替わる。

 

さらに、囃子方だけが町内会の仕事ではない。宵山の期間中、希望者は実際に鉾の上に乗ることができる。このお客の整理や、お金のやり取りなど、細かい仕事も待っている。

 

 

 

イベントに出店者側で参加したことがある方ならわかると思うが、人が集まり、お金のやり取りもあり、雑踏のようにになって危険性がある場合などは、それこそ神経の休まる時がないくらいである。

 

これらのことを、町内会の方々が担当している。それを手助けしてくれるのが「バーチャル町内会」の会員ということなのだ。こうして祭りが、何とかやり繰りできている。

 

 

 

それどころか、正規の町内会の住民でも、サラリーマンは少なくない。ある知人は、いつぞやの祇園祭では、ぎりぎりまで手伝いに奔走して、宵山から巡行当日は出張に行く、ということすらあった。

 

バーチャル町内会の会員でも、山鉾巡行の前日から当日は、サラリーマンなら有給休暇を取って参加している、と事例報告でも話があった。何とも大変な話なのだ。

 

幸いなことに、祇園祭という日本でも最大級のお祭りであれば、行政からの支援も含めて、経費を賄うという面では恵まれているかもしれない。

 

それでも山鉾町に店を構える自営業の方などは、この祭りの期間は仕事にならない。飲食店であれば何とか営業できるだろうが、それ以外の仕事は、期間中は休業同然の状態になってしまう。

 

 

 

こうした「町衆の心意気」によって、祭りは支えられている。そうなんだけど、まず住む人が減っている。祭りを支える若い人たちは、鉾町に住む親とは離れて住んでいる。祭りには、自分の住まいから通うということにもなる。

 

表向きは日本三大祭の一つというけれど、昨年の公開講座での報告を聞いていても、裏側では、担い手の後継者問題など、ぎりぎりのよころで成り立っている、ということがよくわかった。

 

こうして私たちは、何事もなかったかのように、見物客として祭りを楽しむことができている。