ごっこ遊び 超える本物 提供し  | がいちのぶろぐ

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環境問題と経営の接点、中小企業の戦略やマーケティング活動,
観光・伝統産業関連などについて、「がいち」が考えたこと、思ったことを書きとめてゆきます。

一昨日のこのブログで、「インサイト」ということについて考えた。その折りに、「インサイト」という言葉をよく表しているということで、アップルのスティーブ・ジョブズの言葉を紹介した。

 

それは、「人は、自分は何が欲しいのか形にして見せてもらうまでわからないものだ」という言葉だった。

 

その時にも、「『これが欲しかったのだ』と、膝を打って飛びつくような商品が現れる」という説明をした。そして最後に、「これをサービス産業である観光関連業に、どのように応用・展開できるかを考えてみたい」と書いた。

 

私がこのブログで、こうした話について書く時には、「顧客の『顕在化している要望=ニーズ』に対比させる形で、『顧客自身がまだ気づいていない欲求=ウォンツ』という言葉を用いてきた」とも書いておいた。

 

サービス産業である観光関連の事業で、では「インサイト」、すなわち顧客のまだ現実化していない欲求を、いかにして捉えればよいのかを、この間考えていた。

 

TBS系列の〝旅もの″的なロケ番組で、漫才コンビ・バナナマンの日村勇紀さんが、「せっかく○○へ来たのだから、△△を食べて行きなさい」ということを、その地域に産む人に聞いて回って、教えてくれたものを食べる、という番組がある。

 

外国人観光客にとっては、案外この日村さんの番組の〝コンセプト(考え方)″が当てはまるのかも知れない、と思うのだ。「せっかく日本に来たのだから、○○を体験して行ってください」という表現で。

 

外国人観光客が、日本に来たから「○○を食べてみたい」「○○を体験してみたい」と考えるなら、すでにガイドブックやSNSなどの情報源によって、何らかの要望を準備しているのだから、これは私の表現では「ニーズ=顕在化している要望」に当たる。

 

「寿司や和食が食べたい」とか、「温泉に入ってみたい」という場合もあれば、「○○というお店の△△が食べたい」とか「○○温泉に行きたい」という具体的な場合もあるだろう。

 

それに対して「インサイト」、または私が使う「ウォンツ」という場合なら、「こんなこと・店・食べ物などがあったのか」と、初めて知ってびっくりする、ということである。今までに得てきた情報には、〝なかったこと″との新たな出会いである。

 

一昨日のブログでは、顧客の「インサイト」を知るために、「顧客の行動を注意深く観察」したり、「顧客との関係性」を築いたりすることが重要だという解説も引用していたと思う。

 

つまり、相手が〝本当は何を求めているか″を知るためには、相手を深く知ることが必要だという意味である。

 

では、外国人観光客が日本に対して、〝本当に求めているもの″とは何だろうか、ということを考えることになる。それがわかれば苦労はない、ということを考えるのである。

 

ジョブズの言い方を借りれば、「何が欲しいのか形にして見せてもらうまでわからない」ものを目の前に置いてあげる、という作業なのだ。

 

以前にこのブログで、「忍者体験」や「侍体験」という名の「ごっこ遊び」をさせてあげる、という事例について書いたこともある。これも一つの「インサイト」の結果なのだと思う。

 

成田空港に初めて降り立った時に、誰一人として和服を着ていなければ、〝ちょんまげ″も結っていないと驚く、という外国人だっているわけだ。そんな馬鹿な、と笑うこともできるけれど。

 

韓国・ソウル市の近くに、「龍仁民俗村」というテーマパークがある。韓国の〝朝鮮王朝″時代の家並みを再現し、そこで昔の暮らし方を演じて見せる、というテーマパークで、初めて韓国観光に行った場合、外国人はかなり多く訪れる観光ポイントである。

 

これと似た取り組みは、日本でもあちこちで行われている。博物館的なものとしては、明治期の建物などを保存しながら見せている「明治村」もあるし、江戸時代を模したテーマパークや、京都の「東映映画村」などの娯楽施設もある。

 

ただ韓国の民俗村と比べると、中途半端というか、そこで演じる人たちが不徹底であるような気もする。昔の暮らしぶりを再現するのなら、そこで演じる人たちの振る舞いから、演じる内容まで、もっと徹底した方が良いかもしれないと思うが。

 

しかしこれらは、あくまで「テーマパーク」なのである。どこかで、「ごっこ体験」の一種でしかないと思う。とは言え、私たちがもはや江戸時代の暮らしをしているわけではないから、こんな場合には、あくまで再現でしかないことも仕方がない。

 

では、外国人観光客が驚くほどの、〝本物の異文化体験″とは何なのか。そして、外国人観光客は本当にそれを求めているのか、ということを考えることになる。

 

例えば、中山道の宿場町だった「妻籠塾」「馬籠塾」「奈良井宿」などが、外国人観光客にかなりの人気を集めているという。このことも、以前にこのブログで紹介したことがある。

 

 

 

これらの地域は、もちろんそこで誰も〝演じている″わけではないけれど、そこにある建物やその場の雰囲気が、再現ではなく、昔ながらの本物であることで人気を呼んでいる。

 

京都や金沢などの町で、外国人観光客にとって今や定番となっている、「着物姿で町歩き」ということも、「ごっこ遊び」の一種なんだけど、その背景となる場所が、着物姿が似合う場所だということである。

 

 

 

そうだとするなら、伝統工芸の体験コースなども、それなりに人気を集めていることだろうと思うが、これが思うほどには人が集まっていないようだ。もちろん各地で数多く行われているから、それらを全て合算すれば、大勢が体験していると言えなくもないが。

 

群馬県の名湯・気刷温泉で、熱いお風呂に入るために、何十杯も〝掛け湯″を身体にかけてから、短時間だけ湯につかることを繰り返す、という入浴法も、外国人に人気だという。実際に、それを経験してみないとわからないことだから。

 

こうした「ごっこ遊び」のレベルを超えた、「本物体験」を提供することができるなら、これが「本物が持つ驚き」ということになるだろう。

 

兵庫県の城崎温泉では、「外湯めぐり」という温泉体験ができる。浴衣姿で駒下駄をはいて、町の中に点在する「外湯」を巡って行く。これも面白い体験だということで、外国人観光客が急増している。

 

 

 

もちろん寺社仏閣などの文化財巡りや、絶景を見る旅というものは、常に存在する。それに加えて、〝その土地ならでは″という、本物と出会える機会を提供することが、インサイトなりウォンツを満たすことになると思う。

 

古い町並みを再現して観光スポットにするなら、そこで働く人には、コスプレとしてその時代に合った衣装で演じてもらうところまでやる。〝襷に前掛け姿で料理を運んでくる。

 

居酒屋さんだって、店員が袢纏や作務衣くらい着ている店は少なくない。旅館の客室係の女性は和服姿で立ち働いている。「和風」を見せるのなら、徹底して行うことが重要になる。

 

お客の外国人が、『従業員と一緒に、その場所で写真を撮りたくなる』ようにするには、どうすれば良いかを考える。そのことがきっと、「インサイト」なり「ウォンツ」として外国人観光客が求めていることなのだと思う。