用の美の 若き力と 新緑と | がいちのぶろぐ

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環境問題と経営の接点、中小企業の戦略やマーケティング活動,
観光・伝統産業関連などについて、「がいち」が考えたこと、思ったことを書きとめてゆきます。

穏やかな薄曇りの空で、小鳥がどこかでさえずる声が聞こえてくる。のんびりとした土曜日だ。梅雨入りまでは、まだ2週間ほど間があるらしい。

 

今の時期、我が家の小庭でもサツキが満開の時期を過ぎ、南天が勢いよく葉を伸ばし始めている。やはり暑くも寒くもないこの時期は、過ごしやすい季節だ。

 

 

 ところで、昨日配信されていたダイヤモンド・オンライン誌で、奈良市にある伝統工芸産業の「中川政七商店」のユニークな活動が報じられていた。

 

昨年、創業300年を迎えた老舗ではあるが、ご他聞に漏れず衰退産業と化していた家業を、若い13代目のご当主が立て直しを図る中から、新たな活動を生み出しているのだという。

 

(中川正七商店 ホームページより)

 

いわゆるSPA企業として、伝統工芸品の企画・開発・製造から流通・販売までを、自社が一気通貫で実施する企業に変化させてきたということだ。

 

今は、ブランド育成に力を注ぎ、伝統工芸の手法で制作された自社ブランドの雑貨品を、直営の販売経路を立ち上げて販売するとともに、そこで培ったノウハウに基づいて、全国の伝統工芸品の製作に携わっている企業に対して、コンサルティング、サポートも行っている。

 

さらに、こうして出来上がった各地の伝統工芸関連の企業と連携して、「大日本市博覧会」と名付けて、全国各地で見本市を開催しているという。また、それぞれの地元の土産物店と伝統工芸産品の生産者を結び、間に立って土産物の企画・開発と販売経路づくりのサポートも行っている。

 

(同社 ホームページより)

 

まさに、八面六臂の大活躍というべきだろう。本拠とするところも奈良市。新薬師寺には有名な国宝の「十二神将像」もおわす地である。三面六臂の塑像を超えた「八面=全方位」の活躍を期待したいと思う。

 

(新薬師寺/奈良市)

 

 

 

伝統工芸業界では、私の住んでいる京都市はその総本山のようなところだ。だが、国が指定している「伝統工芸」業界の売り上げは全国的にみても1,000億円程度で、この30年ほどの間に全体で約5分の1の規模にまで縮小しているそうだ。だから、このブログでも何度か取り上げているが、伝統工芸業界は自ら変わることを求められていることも確かなのだ。

 

東京・浅草にある有名な浅草寺の脇門・二天門の前で、ミュージアムと工芸品の土産物ショップを併設している「アミューズ・ミュージアム」の辰巳清館長は、伝統工芸品に土産物としての需要があることは認めつつも、実際の購入価格帯は、やはり高くても3,000~5,000円止まりだと言っておられた。

 

(アミューズ・ミュージアム 奥に二天門が見える)

 

手作りの一品ものとして、すぐに10数万円という価格が想定されてしまいがちな伝統工芸品ではあるが、観賞用のものとしてではなく、実用的な生活雑貨として生き残って行くにためには、やはりそこに「値ごろ感」が存在しているということだろう。

 

こうした点についても、中川政七商店の13代目当主中川政七氏は、自社のホームページの中で、概略次のように述べておられる。

 

(13代目・中川政七氏 ホームページより)

 

西洋の文物が入ってきたことによって、私たちの生活の利便性は高まったけれど、「利便性を備えかつ古来より培ってきた日本人の感性にあうものが求められている」時代になっているのではないかと。

 

ただし現状認識として、「しかし、いまだ日本の工芸は総じて厳しい状況」にあことを踏まえ、自分たちが「日本の工芸を元気にする取り組みを始め」たという。

 

その結果が製造~販売を一貫して行う事業形態での“自社ブランド育成”の取り組みあり、そこで培ったノウハウを伝えるコンサルティング事業だと述べている。

 

そして最後に、今後に向けた決意表明として、「『産地の一番星』を数多く生み出し、日本の工芸を元気にします。変化を恐れず、進化する老舗として、新たな100年を歩んで行きたい」と結んでおられる。

 

いい試みであり、素晴らしチャレンジ精神だと思う。伝統という場所に安住し時代の変化を見ることを怠っていたり、工芸作家として高額の美術品作りを中心に据えてしまうことも、それはそれでありがちなことである。

 

中には、工芸品というところから出発しながらも、現在では美術作品と呼ぶべきものに昇華して行ったものも多々あると思う。だがもう一方で、柳宗悦が唱えた民芸運動の「用の美」という視点で見直され、今日も生産され続けている、生活に根差した工芸品というものも多い。

 

こうした民芸品というか、生活雑貨の中に秘められた美しさを愛でてきた、私たちの祖先の美意識は、思えば素晴らしいものだったと思う。だからこそ、これからも無くなってほしくはないし、一方で、普通に暮らす私たちが気軽に手の届く範囲で、それらを用いることができたら、それは素晴らしいことだと思う。

 

貝沼航氏が福島県会津の地で、会津漆器の再興に向けて頑張っておられる。古都・奈良の地からは、中川政七氏が、全国に向けて発信を続けておられる。このような若い息吹きがあちらこちらで起こってくれば、“新しい波”が起こる可能性が広がるだろう。

 

(漆とロック/漆器「めぐる」 ホームページより)

 

伝統工芸品が、生活のシーンでごく普通に使われるために、懸命に活動をしておられる若い力を応援したいと思う。

 

中川政七商店 ホームページ

http://www.yu-nakagawa.co.jp/