陽もまぶし 地元の若き リーダーたち  | がいちのぶろぐ

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先日配信されていたダイヤモンド・オンライン誌だったと思うが、「地元企業の若き経営者『ヤンキーの虎』が日本経済を担う!」という記事が、気になって仕方がない。

 

なぜわざわざ、「ヤンキーの虎」などという煽ったタイトルにしたのだろうか。記事の内容に関してはおいおい述べようと思うが、まあ言いたいことはあるけれど、この記事はこの記事なりにわかる内容ではあった。

 

ただ記事の中にも、それぞれ地元(東京に対する地方、という意味合いだろう)で頑張っている経営者の中には、若い頃にやや素行に問題があった若者を採用することもある、ということは触れているが、だから経営者自身が「ヤンキー」であったという確たる証拠は出てこない。

 

それ以上に、地元出身で地元の国立大学を卒業した人物を積極的に採用し、幹部として処遇するとも書かれていた。こうした方法で、地元密着度を強めているのである。

 

このような若い経営者の中には、かつてヤンキーと呼ばれるような経歴だった経営者も、いるだろうと思う。世の中の経営者全員が、成績優秀で素行が良好な人間ばかりなどとは、全く思っていない。

 

だから、色々な人間がいることは不思議ではない。それを一括りにして、「地元企業の若き経営者『ヤンキーの虎』」と煽ることはどうなのか、と思ったのだ。逆に、そういう人間でなければ「“地元”で頑張る経営者」像にふさわしくないのか、と考えてしまう。

 

そもそも、ことの発端はきっと、2014年に博報堂の原田曜平氏が出版された「ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体」(幻冬舎新書)に起因していると思う。

 

 

 

原田氏は、地元密着型の人生を送ることを考える層を、「マイルド・ヤンキー」とネーミングされて、この言葉は流行語にまでなった。

 

こうした生まれ育った地元志向が強く、大都市圏へ出て行くことを好まない層が一定存在する。彼らが、地元に残って昔からの交友関係を軸に生活し、その地域に基盤を築いてゆく。結婚しても親の家に同居するか、実家の敷地内に新たに家を建てて住むことで、住居費も大都市圏と比較して少なくて済むので、その分を消費生活に回すことが可能になる。

 

こうした層は、消費者像を考える場合に、これまでは見落とされがちだったけれど、彼らの可処分所得は都会で暮らす若い層よりも相対的に大きく、これが消費を考える上で無視できない、というところから発想され、彼らを表現する言葉として原田氏は「マイルド・ヤンキー」と名付けられたのだ。

 

だから、彼らの全てが素行不良だったというわけでは決してなく、彼らを象徴する言葉として発想されたものである。この言葉自体、原田氏によって提起された3年前にも、「東京からする上から目線」といった批判を浴びたという経緯もある。

 

マーケティング・ディレクターらしい表現と言ってしまえばそれまでだが、こう言っておけばなんとなくイメージしやすく、わかった気になる言葉であるからこそ、流行語になったのだと思う。

 

だが、今回の記事では、例えば「かつて、マイルド・ヤンキーと呼ばれたような暮らし方を選んだ若者たち」が、若い経営者として立ち現われてきている、といった表現なら、まだ許容範囲であるが、「ヤンキーの虎」という、いわば“決めつけ”なのである。

 

実態としてそういう人がいるだろうということは、繰り返しになるが、全面的に否定するものではない。

 

ただ、原田氏はそれでも、「マイルド・ヤンキー」という“生き方”を細かく規定し、その暮らし方の特徴を考察した上で、その「消費者像」を明らかにしようとしたのだった。それが書物のタイトルの後半部分「新保守層の正体」というところに示されている。

 

原田氏の考察によれば、彼らは概して早婚であり、子どもが好きで、奥さんを大事にし、家族の絆を重要視する傾向がある。だから、これを「新保守層」と見たのだ。

 

こうした家族の間では、「大きな夢」や「野心」が語られるよりも、好きな車の話や、仲間の誰それに講人ができたらしい、といった、生活に密着したり、交友関係の中での話だったりと、自分の周りに起こった身近な話題が多くなるだろうと思う。

 

そうした、ある意味で、かつては「小市民的」とも言われたような生活を好む層の話だったはずだ。それが、今回の記事では、「地元企業の若き経営者」なのである。

 

その記事では、彼らローカルに根差した若い経営者は、サービス業・小売業などで、フランチャイジーとして多角経営を目指しているという。例えば携帯電話の販売店や、コンビニ・チェーンへの加盟などだということだ。

 

それはそれで、誰かが必要だと思い、そうした店があることが好ましいとなれば、ビジネスチャンスだからそれを経営しよう、と思っても不思議ではない。

 

また、フランチャイズ・チェーンに加入することで、地方中小企業が取り組むには結構ハードルが高い、従業員教育や接客訓練なども、マニュアル化された教育訓練システムの提供を受けることができるので、効率的に実施が可能になる。

 

これらのメリットは、経営面からみれば決して小さなものではないだろう。だから、若い経営者が頑張る場合に、こうした分野の業種、こうした方法で地域の「一番星」を目指すことは何も間違ったことではない。むしろ好意的に捉えるべきことだろう。

 

ダイヤモンド・オンライン誌の記事でも、その点は同様の視点で取り上げている。また、「地方におしゃれなパン屋が多い理由」という見出しで、彼らは情報収集力が高く、東京で流行っているものや、流行りそうなものを素早く取り入れるという、「ミニタイムマシン経営」を実践しているという。

 

中小企業の経営者として、フットワークが軽く、変わり身も早いのは、それはそれで悪いことではない。何が受けるかわからない現状で、とにかく一度チャレンジしてみる。ダメならさっさと撤退する、という戦略も、中小企業の小売業等では考えられる戦略であり、正しい選択だと思う。

 

そして、彼らは「地縁・血縁」という“地元密着”のメリットを最大限に生かしているという。当然のことながら、商圏が小さい地域で営業する以上、地元密着という考え方も成立する。広域的に「打って出る」方向を目指すか、徹底して地元深耕型を目指すか、どちらかに焦点を絞らないと、拡散してしまっては経営が中途半端になる。

 

だから、生まれ育った地域に密着し、地縁・血縁をテコにその地域を深耕して、市場を新たに作り出す努力は素晴らしいことだと思う。このように、この記事に示されている「地方中小企業」の中でも、特にサービス業や小売業が採るべき戦略、実践行動はすべて模範的なものだと思う。

 

これになぜ、「ヤンキーの虎」という煽りが必要なのだろうか。結局は、原田氏が唱えた「マイルド・ヤンキー」という言葉が筆者の頭の中にあり、地元密着型で地縁・血縁などを重視する経営感覚だから、『これは、元ヤン的匂いがする』と思ってしまった、としか思えない。

 

原田氏が提起したのは、小市民的幸福感を大事にする、比較的のんびりとした暮らし方が好きな「新保守層」というべき姿だった。彼らは、「野心」などといった感覚とは異なる方向性を持っている、と原田氏も指摘されていたはずだ。

 

一方で、記事の中で示されていたのは、野心的で、精力的で、活動的な若い経営者像だった。だから、彼らはマイルドではなく、バリバリのヤンキーであり、「ヤンキーの虎」だというのだろうか。

 

違うと思う。それは元・ヤンキーであろうとなかろうと、若い経営者で、自分の力だけで頑張って行こうとした場合に、採り得る経営戦略の中の一つのパターンはないか。これでは、本当にそれぞれの地域で努力している人が、一括りに「若い頃は素行不良だったんだね」と思われてしまうではないか。

 

「どう思われようとかまわない。自分は自分だ」という答えが、こうした頑張る若い経営者たちから返ってきてほしいけれど、いずれにしても、きちんとした媒体に掲載された記事が、こうした形の「煽り」を行うのは、とても不自然で違和感を持ってしまった。