昨日のブログで、雑誌「ソトコト」5月号の特集記事「地域の編集術」に関連して、私の考えていることを書いたが、その折りに、山形県・朝日町で地域づくりの実践をしておられる佐藤恒平氏の名前を紹介した。
佐藤氏は、この特集記事の基調となる「『地域の編集術』論」の中で、次のように述べておられる。キーポイントなる考え方だと思うので、少し長くなるが引用させていただく。
「地域づくりで心がけているのは、笑顔。地域を一くくりにとらえることはせず、喜ばせるべき相手は誰か、その人をどういう笑顔にするか、目の前の人と向き合うようにしています。やっていることは地域づくりですが、相手は人ですから。」
そこにいる「人」と向き合い、「その人」を笑顔にすることが、地域づくりの原点ととらえておられる。
そこで、私自身が住んでいる地域では、いったいどのような市民向けの事業が行われているのだろう、ということが気になってきた。
私が住んでいるのは、行政区画としては「京都市左京区」になる。毎月、町内会を通して「京都市だより」というタブロイド版の広報紙が届くし、「左京区のひろば」という広報紙も届く。
今までも、ざっと目を通してはいたが、それらに書かれている内容は、たまに興味を引く記事もあるが、大半はそれほど記憶に残ることもなかった。
そこで、この際だと思って、今朝から少し丹念に左京区役所のホームページを見てみることにした。すると・・・。
まず、おもしろい発見をした。この左京区内には、あの京都大学をはじめとして、京都工芸繊維大学、京都府立大学、京都造形芸術大学、京都精華大学、京都ノートルダム女子大学と、大学が6校存在する「大学のまち」だった。
(京都大学 時計台)
いや、その事実は、当然知っていた。左京区役所のホームページに、「大学のまち・左京」というページが存在していた。そこには、次のように書かれていた。
「左京区基本計画において,『大学のまち・左京』の推進を掲げ,大学・学生と地域の連携を図る取組を進めています。」
へえ、そら知らなんだ。それは、知らなかった。そこで、このホームページでは、例えば、学生にボランティア登録を呼びかけるとともに、学生ボランティアを必要とする団体にも、募集を呼びかけていた。行政主導で、学生ボランティアのマッチング事業を行っていたのだ。
もちろん、住民の活動支援についても色々と掲載されている。
まず、「左京区民ふれあい事業 第35回『左京区民煎茶会』の開催及び参加者募集について」という項目が目についた。左京区内にある、あの有名な観光寺院「銀閣寺(慈照寺)」で、煎茶会を開催するという。その説明が凄い。以下、原文のまま。
この度,左京区民ふれあい事業実行委員会では,世界遺産である慈照寺(銀閣寺)で,区民の皆様に,煎茶のお点前を楽しんでいただく,「第35回左京区民煎茶会」を開催します。参加者を下記のとおり募集しますので,併せてお知らせします。
国宝である観音殿(銀閣),東求堂をはじめとする文化財や月待山を背景に広がる庭など,東山文化の真髄たる簡素枯淡の美を写す一大山荘である慈照寺(銀閣寺)において,煎茶を味わっていただくことによって,左京区の歴史と文化の深さを実感していただけます。
こんなことを行っていたのだ。募集定員も、なんと320名となっている。参加費は拝観料を含めて1人1千円。拝観料を差し引いた参加費の高い安いは、私には判断がつきかねるが、煎茶の家元の方が淹れてくださる煎茶をいただいてこの値段なら、きっと破格の安さなのだろう。
(割と簡素な銀閣寺の門構え)
ここで疑問が湧いた。当日ポッと行って1千円を支払えばそれでいいのかと。やはり、左京区民向けのイベントであるからには、左京区民以外が誰かれなく参加しては困るということだろう、「お茶券」は区役所で発売します、となっていた。
参加したければ、平日の朝8時半から夕方の5時までの間に、区役所の窓口に行って、きっと住所や名前を言わされるのだろうけれど、それでお金と引き換えに「お茶券」を購入する。
そもそも開催日程が平日の昼間であり、それに参加できる人というのは、主婦の方か、リタイアした高齢男性か、はたまた学生か。だから、お茶券も買いに来ることが可能でしょう、という案配である。
まあ、最近の外国人観光客の人数から考えても、土・日に開催は難しいだろうと思う。とはいえ、参加できるのは。子どもの手が離れた主婦と高齢者にほぼ限定されてしまうようだ。それにしても、行政サイドも色々なことを行っているものだと感心した。
さらにホームページを見てゆくと、「左京朝カフェ特別企画『左京大博覧会2017』の開催について」という広報を見つけた。
最近「○○カフェ」という言葉をよく聞く。私には「カフェ」とは「喫茶店の新しい呼び方」というイメージしか湧かないのだが、ここで用いられる「カフェ」という言葉は、「お茶でも飲みながら、少しおしゃべりでもしましょう」というイメージで、会議やミーティングほどには肩肘張らない集まり、ということなのだろう。
そこで、区役所内の、会議室などではない「市民向けの場所」といったところを使って、いろいろなサークルや集まりなどを行っているグループが、年に一度の「フェスティバル」を開催します、ということだろうと思った。
(左京区総合庁舎)
催しの内容はそれこそ多岐にわたっているが、それよりもこうしたグループ・集まりが、色々とあることに正直少しびっくりした。いや、これも「噂」は聞いていた。盆踊りのお稽古グループまで存在することなどは。
それ以上に、「京都市歴史資料館」の方が来られて、「左京と鯖街道」というトークセッションまで行なわれるという。単なるお稽古ごとの発表会などといった催しではなかった。
「鯖街道」とは福井県小浜市=若狭湾と京都市=都を結ぶ、海産物の輸送ルートの通称である。そのルートは「都」側では、御所のすぐ手前まで、街道はずっと「左京区内」だけを通っている。この輸送ルート=街道の歴史を教えてもらえるというのだ。
また、左京区もいまではほとんどが市街地と化したが、それでもまだ農地は残っているので、野菜の即売=マルシェも行うのだという。
いやいや、なかなか盛り沢山なイベントである。ところで、この催しは土曜日の開催だから、家族連れなども参加できる。どんな人たちが集まって来るのか、これはぜひ一度、実際に体験しなければいけないだろう。
私自身が今まで、地域について知らなかったこと、というか、知ろうとしてこなかったことが、どれほど多かったことだろう。女性が地縁=地域ネットワークを持っていることと比べると、男性は仕事にかまけて、地域と如何に無縁で過ごしていることかと、痛感させられる。
それと同時に、行政をはじめとする主催者側が、これまでいかに広報が下手だったのかということも感じてしまった。“知られていない”ということは、知らなかった人にとっては、“なかったこと”である。
ここを、何んとか変えて行かないといけないのかもしれない。