「ブレッド、私、何か変なの、私の中で何か、おかしな事が起こっているみたいなの…」
カタリーナにも自覚があったのです。自分が認知症になりつつある事が…。
二人は、予定していた講演を全てキャンセルし、急遽、帰国しました。
受診すると…、
二人は、医師から衝撃の言葉を耳にします。
若年性アルツハイマーだったのです。
カタリーナ「…、先生、治療法は無いのですか⁈ 脳トレとか、最悪、脳外科手術でも、何でも受けます。
嫌です。嫌です。助けて下さい!
お願いします。お願い…」
カタリーナは、酷く取り乱し、医師に詰め寄りました。
医師「完治させる事は困難ですが、進行を遅くする方法はあります。一緒に頑張りましょう」
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診察の帰り道、二人はポトマック川の川沿いに咲く桜並木の下を、歩いていました。
二人は、16年過ごしたホワイトハウスが見える場所に、新居を構えていたのです。
カタリーナ「もうすぐ、この桜も…、終わりね。来年の桜も…、
こうして貴方と…、眺める事が…、出来るかしら…?」
寂しげに、ポツリ、ポツリと言いました。
カタリーナの目から、涙が溢れています。
ブレッド「見れるさ、君がいなければ、この桜だって咲かないさ。僕の中では、咲かない…、だから…」言葉を飲みました。
頑張って、と言う事が出来なかったのです。
残された時間を、楽しい思い出だけで彩りたい、そう願ったのです。
二人の足取りは重く、自宅までの距離が、とても長く感じられました。
二人の肩に、ハラハラと舞い落ちた桜の花びらが、いくつも落ちています。
それは、運命には逆らえない事を、寄り添う二人に告げている様でした。
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カタリーナは、赤い毛糸を買い、編み物を始めました。
指先を使う事は、脳の訓練になるからです。
かぎ針だけで、ただ真っ直ぐ編めば良いマフラーなら、認知症が進行しても完成させられると考えました。
しかし、そんなカタリーナの願いも虚しく、症状は日に日に進行して行きました。
新居に慣れていない事もあり、パニックになる事が増えたのです。
そして、意識がまともにある時に「マッタリアの実家が恋しい」と言う様になったのです。
ブレッドは、カタリーナの希望を受け入れ、二人で実家で暮らす事を選びました。
しかし、マッタリア家での介護は、ブレッドには想像もしなかった、辛いものが待ち構えていたのです。
つづく
PS ワシントンD.C.とアーリントン墓地の間を流れるポトマック川の桜は、100年以上前に日本から送られた3000本の苗木が植えられたものです。
第二次世界大戦中でも切り倒される事は無く、咲き続けました。
