空虚 | 文芸部

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202X年 栃木某所

 

 

 

夜も更け、人通りの少なくなったいつもの道を、重い足を引きずりながら歩く。この時間になるとここらは車もほとんど通らないし、付近の家々も明かりが消えて静まり返っている。静寂の中、履き古した自分の革靴だけが不規則に足音を響かせていた。

 

 

 

俺の名前は櫻井。市内のチンケな会社で営業をやっている。職を転々とし、数年前にこの職についた。仕事は嫌になるほどつまらなく、やりがいもまるでない。けれどもう年も年だし他に行くところがあるとも思えないので、惰性でいまの会社にしがみついている。給料なんかあってないようなもの。手取りから生活費に住民税、その他細かいものを支払ったら万札一枚残らない。なんでこんな仕事してんだろうなぁ、ってぼやきたくなることは毎日ある。なんの希望もない生活だった。

 

 

 

暗い夜道を歩いてようやく家の前にたどり着く。鞄を漁ってカギを取り出し、扉を開けて乱暴に閉めると、適当に靴を脱ぎ捨てて自室に転がり込んだ。少しため息をついてからタバコに火をつける。スーパーで買ったビールと半額の弁当を取り出すと、まずビールから開けて少し飲む。それからまたタバコを咥え、吸い終わってからやっと弁当を開けた。正直食欲なんかほとんどない。ただ腹を満たすだけのつまらない食事だった。

 

 

 

…本当に、俺は何歳までこの生活を続けなくてはならないのだろう。何の展望もない人生。これから先の将来を考えるとときどき軽く絶望感を感じることがある。一年後ぐらいならまだいい、というか仕方ない。きっと今のままこの生活を続けているだろう。一年ではそれほど変わらないものだ。でも五年、十年後は?正直言って、いまの暮らしが続く保証はない。リストラされる可能性もあるが、何より勤めている会社は田舎のチンケな会社だ。いつ倒産しないとも限らないことを考えると、先のことなんてとてもじゃないが見通せなかった。

 

 

 

仮にリストラや倒産がなかったとしても、ずっとこの仕事を続けるのは難儀なことだ。つまらなくて気だるいだけの仕事を定年まで続ける…そしていつしか退職し、手に入るのは少ない年金だけ。そんなことのために生きる人生なら、意味なんてあるのだろうか?

 

 

 

俺は一旦箸を止め、ビールを飲んでから首を振る。そんな人生だって?そりゃみんな同じさ。たいていの人間は学校を出たらどこかに就職して、そこから定年まで働く。そりゃ中にはスターになる奴もいるかもしれないが、そんなのは例外中の例外。ほとんどの奴は会社でつまらない仕事をして定年までそれを続ける人生しかない。つまり、みんな同じなのだ。俺だけじゃない。そう、俺だけじゃないんだ。

 

 

 

そこまで考えたところで俺は急な空虚感に襲われ、弁当を一気に書き込んでビールで飲み干すと、洗面所に駆け込んで洗面を済ませ、電気を消して布団に潜り込んだ。虚しい。ただただ虚しかった。今の生活を続けようが破綻しようが、結局どっちに転んでも駄目。みんな自分と同じだと言い聞かせても、それも虚しいだけ。何一ついいところがない。つまり今の会社にいたって先は真っ暗だ。意味のない日常。それでも明日もまた起きたらその日常が待っている。一体俺はどうすればいいんだ?星々も月も、誰も答えてはくれなかった。