本格推理4 | 猫の島調査報告書

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月夜にささやかな酒宴 ことのは積み上げ十年目

今日は気分的に長々感想。というより備忘録。

某サイト様方はコレを毎日やってるかと思うと頭が下がります。



ということで、50円玉つながりで。こちら↓ 


★「本格推理」4/編:鮎川哲也/光文社文庫。


●「雪花の舞」/高張是人。
手紙ミステリ(?)にして雪の密室もの。よだれが出そうな設定だ。

トリックは単純なのだが、読むべきところはそこではない。

作中の探偵雅の台詞のとおり、「いかに」より「なぜに」に重点が置かれている。

探偵にも密室にも人間にも愛があるなと感じた。
切なくて、いい作品だ。



●「1/2」/北条義弘。
にぶんのいち。
チャイナ橙もかくやの、物が全て半分にされた部屋で発見された他殺死体。
いろいろ書くとネタばれるので書けないが、映画の一場面のような古典的犯人の告白と、明かされない動機が不思議な余韻を残す。



●「内勤刑事」/池月涼太。
走行中に上から人が降ってきた――人を轢いたトラック運転手と対向車線の運転手は揃って証言する。
現場はビルもない橋の上。轢かれた人物はいったい何処から出現したのか。
新米刑事・若井が苦吟していると、捜査一課にいながら日がな一日書類整理に明け暮れる『内勤刑事』が話しかけてきた。
内勤刑事がいいキャラクターだった。まさかそれが本当の目的じゃないよねw?



●「鳴く密室」/濱田健一。
公園の立方体のオブジェが、燃えている。

そしてオブジェ――人間の入れるはずのない密室の中で男の焼死体が発見された。
消防士の主人公と友人達は、不思議な事件について話合ううち、男が生前書いた小説に同様の密室が記されていたことに気付く。
事件自体はなんてことないが、状況は面白い。"お茶会"に参加するキャラもそこそこ○。



●「超能力者の密室」/中村英雄。
超能力者・笹本英幸の能力は本物なのか?
別荘での超能力実験中、立会っている懐疑派の男が殺された。死体は密室の中にあり、さらに扉の閂は異様な方向に曲がっていた――超能力者が曲げたスプーンのように。
迫力のある作品。冒頭のテレビの超能力番組シーンが良かった。読後に残るものがある作品は大好きだ。


●「偶然の目撃者」/安浦むつみ。
浅草花やしきにある迷路で起きた殺人事件。被害者の連れの証言「お化け、お化け」は何を指しているのか?
文章がぶつ切れで読みにくい↓。メインの謎は、絶対に現物を知らないと解けない系のマニアックすぎるもの。つくりはいい感じなのに勿体ない。



●「開かれた数字錠」/高村寛昭。
あの島田荘司「数字錠」に真っ向から挑戦した作品。同じく数字錠のしっかりかかった現場でおきた事件である。

この作品の解決自体は全然アリだが、もう少しキレイな方向に纏められなかったんだろうか。
美しいものを美しく書けるのも才能だよな。



●「情景に誘われる悲喜劇」/譲原実。
少女シリーズを描く画家と、理想の美少女が出会った。2人は創作を通じて惹かれあうが、少女には許嫁がいる。この三角関係が清算されようとしたとき、事件は起きた。
叙情的なのが好きな人は好きかも。探偵が唐突過ぎるのが玉に瑕疵。


●「亡霊の殺意」/木村総。
古典的なお屋敷で起こる惨劇

動機はあるがアリバイもある容疑者達の中から、主人公は犯人を見つけられるのか。
解決は、エエェ(´Д`)ェエエ。古典的すぐる。
しかし文章はかなり上手くて情景がはっきりと想像できる。亡霊もよいよい。




●「完成の朝」/森田明良。

友人兄弟に誘われて訪れた雪の館。一夜明けた庭は、昨日と同じ白い景色――足跡ひとつない雪景色

しかし誰かがここを通っていったのだ。でなければ離れの惨劇は説明がつかないのだから。

凄い状況です。ひさびさにキました。

前日に子供と一緒に雪遊びをしたりほのぼのしていたのが一転、朝日の中血みどろです。しかも雪密室です。

最後に芥川の某作品(トリックとは関係ない)が出てくるけど、あの1行はいらないなぁ。


●「遅すぎた推理」/神田貴仁。

劇団の座長が死体となった事件について安楽椅子探偵をするホウムズ&ワトソン系のコンビ。

新聞記事やら現場ビデオから組み立てた推理は一見正しそうに思えるのだが……。


着眼点が面白い作品でした。これは結構記憶に新しい感じ。


●「雪の夜の五重奏」/鈴木一夫。

その昔、某子爵が建てさせたと言われる館には、「侏儒の塔」という奇怪な塔があった。

ひさしぶりにクインテットのメンバーが集まり、10年前の殺人、そして奇しくも塔に死体が投げ込まれた事件を鷹宮弦楽団は思い出していた。

山中の館! ヴィクトリアンゴシック! ヴァイオリンの調べ!

正統派ゆえに奇怪きわまりない事件と驚きの結末。おどろおどろしい雰囲気と選びぬかれた小道具。全て謎が解けても消滅ない狂気の跡! 絶賛しちゃうよ。



●「たからさがし」/谷英樹

正月の親戚の集まりにて、おじさんが宝探しの話をしてくれた。しかし実は宝探しの最中にひとりの外国人が亡くなったという。

彼の死体はどうやって脚立のない場所で、高い木の上にひっかけられたのだろうか。さらっと言ったけど、そっちが本題じゃないの?

初読時は主人公と一緒に不思議に思ったよ。ああああ、そういうことか!

ヒントいっぱい夢いっぱい。人間無駄になる知識はないよね。




巻末の選者評にて、「五十円玉二十枚の謎」 に鮎川氏本人が挑んだら、というネタも入っている。ここで読んだのだったか。
この時の選外評に、園田修一郎、光原百合の作品名らしきものがある。リライト版が違う巻に載っていたのかな?

しかし15年近くたつと記憶は風化しちゃうなー。
この本も大部分忘れていて、新鮮な気持ちで読んでしまった。

逆に覚えている作品は、かなり正確に行運びまで覚えているので人間の記憶って面白いもんだと思う。やはり残るのは、解けなかった作品や、自分にない視点のメッセージが盛り込まれている作品だ。


さて
続けて、このシリーズから出た作家達の書き下ろし新刊「新・本格推理 特別編 不可能犯罪の饗宴」を読みたいと思う。

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