今回もカルナック神殿について書く。
予め知らなければ辿り着けないような、広い神殿の片隅にハトシェプスト女王の削られたレリーフがひっそりと残っている。
♀:アンクは生命の象徴である。
左右にいる神々がシャワーのようにアンクを注ぎ、その命を祝福している。
女王の名前と姿が削り取られている。
前にも書いたが、ハトシェプスト女王は輝かしい業績を持つファラオである。
しかし、男尊女卑の古代エジプトでは正しく評価されることはなく、意図的に記録が消し去られていった。
エジプト世界の中心だったルクソール神殿に、跡だけでも残ったのは奇跡だ。
神も描かれていて壊せなかったのだろうか。
残念ながら、女王の存在を消し去ろうとする動きは他にも見られる。
アビドスの王名表
歴代の王の名前が列挙されており、ファラオの歴史的な正当性を物語る。
この中に彼女の名はない。
自分の存在を永遠に残すことは古代エジプトにおいて重要な意味があった。
やがて復活するその日までミイラとして姿を残すことも、神殿を建て自分の名を刻むことにも価値があった。
名前を消すことは魂の殺人であり、犯罪者に対する刑罰の一つだったそうだ。
世界から消されるべき瑕疵が、女王にあるのだろうか?
死後も殺され続けるに相応しい罪が、この世にはあるのだろうか?
私にとって『碧いホルスの瞳』は、削られたレリーフに代わって女王の魂を写す鏡だ。
願わくは女王の魂が、その偉業が遥か先まで輝き続けますように。


