「貴様ら、
ここが我々の『新しい戦場』だ。
死ぬ気で耕せ!」
横須賀の港。
かつて日本の最高機密であり、
神のごとき威容を誇った
戦艦「大和」の甲板に、
怒号が響いた。
しかし、
元兵士たちの手にあるのは重い
小銃ではなく、
泥にまみれた鍬(くわ)と
鋤(すき)だった。
かつて佐藤の隣で芋を奪い、
情けなく泣き崩れた
あの元上官もそこにいた。
軍服を脱ぎ捨て、
日焼けした背中を丸めて
土を運ぶ姿に、
かつての威厳はない。
「佐藤……見てみろ。
主砲の跡地に、
ドブ泥を敷き詰めているんだ。
これが『不沈艦』の成れの果てかよ」
自嘲気味に笑う上官の目は、
まだ濁っていた。
西條総理が打ち出した奇策
「巨大戦艦の農地化」
それは、
維持費すら払えない
政府の苦肉の策であり、
居場所を失い
「戦えなかった」と
自分を責める軍人たちに、
無理やり
泥を握らせる
荒療治でもあった。
潮風と錆びた鉄の匂いが混じる甲板。
塩害に強い稲の品種改良は
困難を極めた。
「海の上で米が作れるか」
「英霊への冒涜だ」
世間からの冷たい石が投げられる中、
佐藤たちは文字通り
泥水をすすりながら、
鉄の床に土を盛り続けた。
そして、
収穫の日。
潮風に耐え抜き、
鉄の熱を吸い込んで実った稲穂が、
大和の甲板を黄金色に染め上げた。
「世界最強の兵器が、
世界一不格好な農園になる。」
それは、
かつての軍人たちにとっては
耐え難い
屈辱だったかもしれません。
でも、
その泥の中からしか生まれない
誇りもあるのだと、
私は信じたいのです。」
五章:につづきます。
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