西條は一人になった際、
佐藤に吐き捨てるように言った。
「佐藤。お前を殺せば、
平和の口実が消える。」

「だからお前は、死ぬよりも辛い
『平和という名の地獄』を歩け。
お前が変えてしまったこの国の無様な姿を、
最後まで見届けろ」

軍籍を追われた佐藤が見たのは、
火の海こそ免れたが、飢えに喘ぐ日本の姿だった。
石油は止まり、街には大陸からの引き揚げ者が溢れ、
人々の目は濁っていた。 

平和は、清らかなものだけではなかった。

ある日の夕暮れ。
佐藤は、かつて誇り高き兵士だった男が、
道端で子供から「ふかし芋」を
ひったくるのを目撃する。

男は泥にまみれ、
獣のような顔で芋を口に
押し込んでいた。

「情けない……何が平和だ。
死んだほうがマシだった…。」
喉を詰まらせ、
涙と泥で顔を汚して泣き崩れる男。

 それは、戦場で
「美化された死」を遂げる機会を
奪われた者たちの、
あまりにも惨めな「生」の姿だった。

だが、芋を奪われた少年は、
泣かなかった。
少年はそっと男の背中に小さな手を置き、
こう言った。
 
「おじちゃん、お腹空いてたんだね。
いいよ、半分こしよう」

差し出されたのは、
泥のついた、
けれど確かな重みのある
芋の半分。

「今の時代、
お腹が空いて泣くことは少なくなりました。
でも、
心のどこかが飢えている人は多い気がします。
あの泥だらけの芋の重さを、
今の私たちも忘れてはいけない。
そう思いました。」

第四章:につづきます。

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