ボオイのこと | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

十代の終わり頃、ボオイに出会った。
彼はいつも悪い夢を見ながら、こんなふうに嘆いた。
—— あ、忘れる、また忘れる、なにもしなかったと同じになる

何もかも忘れてしまって死んだように眠るだけになる。
そのことにボオイは心の底から怯えていた。

十代の終わり頃、ボオイに出会ったのは、
大江健三郎さんの『洪水はわが魂に及び』の中でだった。

忘れるな。そう自らを戒める。
今日この目が見た光景と怒りを忘れるな。
昨日この耳が聞いた言葉と希望を忘れるな。