あじさいの季節 | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

この時季、あちこちで紫陽花を見かける。あの淡い青や薄紫の球形の花は曇天の下でも雨に濡れていても清々しい。短歌などでは「あぢさゐ」と旧仮名で書かれることも多いが、この古い仮名の柔らかな佇まいも紫陽花の花にふさわしい。紫陽花を詠んだ短歌には好きなものがたくさんあるが、高野公彦さんのこの歌もそのひとつだ。

みづいろのあぢさゐに淡き紅さして雨ふれり雨のかなたの死者よ
                                   高野公彦

灰色の空から雨が降り、傍らにあじさいの咲く誰もいない路地。不意に、亡くなった親しい人の気配だけが遠い雨の向こうに現れる。「かなたの死者よ」と呼びかけ、あとを継ぐ言葉が見つからなかったかのように歌は途切れる。その余韻が深い。

あじさい2