去る三月三日の桃の節句、東京は雪の降る夜になった。
幼い女の子のいる家には雛人形が飾られていた特別の一日だ。
きっと家人の寝静まった後も、灯りの消えた部屋には祈りをこめられた雛たちが並んでいたことだろう。その家々の上に夜空から淡い雪が降りしきっていたのだと思うとすこし不思議な、どことなく厳かな気がしてくる。
雪を詠んだ詩歌には印象的なものが多いが、まっさきに思い出す俳句が二つある。
山鳩よみればまはりに雪がふる 高屋窓秋
箸とるときはたとひとりや雪ふり来る 橋本多佳子
お二人とも明治生まれの俳人だが、たった今、目の前で詠まれたばかりのように胸を衝く。
白い雪が不意をついて孤独をきわだたせる。