ニクーリンサーカス! | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

サーカスが大好きだ。


生まれた家が神社の表参道にあり、その神社所有の広場(お祭りの際にお神輿が停まる)に子供の頃、よくサーカスのテントが立った。最初に観たのは、『木下大サーカス』だったと思う。空中ブランコはもちろんのこと、綱渡り、バイクの曲乗り、超絶アクロバット、象の曲芸や、トラを操る猛獣使い、走る馬上での美女の曲芸もあった。もはや江戸川乱歩の曲馬団の世界だ。物心ついてすぐに、この目くるめく刺激的な世界にノックアウトされた私は、現在に至るも筋金入りのサーカスファンだ。


ということで、先日、東京ドームで興行中の『ニクーリンサーカス』を観に行った。


脚本家・太田愛のブログ-ニクーリンサーカス

舞台は中央奥に演者が出入りする赤い緞帳幕を配したクラッシクな構え。ロシアはサーカスの長い伝統と歴史を持つ国だ。いやがうえにも期待は高まる。

幕が開くとまずはラート。次いでライトが上方に上がると、天井近くに張り巡らされた細いワイヤーロープに少女のようにしなやかな美女と長髪痩身の渋い兄さんが登場。『綱渡り』だ。トウシューズで綱を渡る美少女に客席から悲鳴が漏れ、さらに美少女を自分の肩の上に立たせて綱を渡る兄さんに感嘆のどよめきが上がる。天井近くで繰り広げられる演技を文字通り口を半開きにしてハラハラと見守る。

緊張の演目の次は『愉快な犬たち』。ちっこい犬からデッカイ犬まで、実にたくさんの犬が舞台を駆け巡り可愛らしい演技を披露する。客席の子供たち大喜び。

そして妖しくも美しい『ジャグラー』に次いで、ピエロの登場。最近では珍しい相方のいない独りピエロだ。このピエロがなんと紙袋ひとつで客席を沸かせる。すべったり転んだりせずに観客を引き込む老練の芸だ。続く『アクロバットデュオ』では美男美女が道具を一切使わずにスリリングなバランスアクトを見せてくれる。空中ソロアクロバットを経て、第一部の最後は、お家芸のシベリアンアクロバット。長い跳躍板を駆使するアクロバットで、シルク・ド・ソレイユの『アレグリア1』でご覧になった方もおられるかと思うが、こちらのシベリアンアクロバットは、ダイナミックな人の跳躍にハスキー犬と白狼のようなサモエード犬も参戦、人と犬が一体になったアクロバットを見せてくれる。

第二部は『ソロ・トラピーズ(一人空中ブランコ)』から始まり、今回の目玉のひとつ、ロシア伝統の『クマのサーカス』が登場。これまでトラ、ライオン、馬、象、犬の演目は見たことがあったけれど、私もクマは初めて。驚嘆……。巨大なクマが踊る、縄跳びをする、自転車に乗る、でんぐり返って跳ぶ。しかも、終演後にはクマに寄り添って写真撮影(希望者のみ・1200円也)という特典つきだ。もちろん、調教師さんが傍らについていてくれるので無傷で帰宅できる。終演後、廊下にズラリと写真待ちの列が出来ていた。

さて、『クマのサーカス』に次いで舞台の方は『ロシアンバー』。お家芸とあってさすがに一味違う。どこが違うかというと、一組の男女がプロコフィエフのロミオとジュリエットの壮大な音楽に乗せてロシアンバーの上を舞い跳びながら愛の物語を演じるのだ。何を言っているか良く解らないだろう。観れば解るロマンティックなロシアンバーだ。

そして、最後はもちろんサーカスの花形『空中ブランコ』!久々にネットを張って行う正攻法の空中ブランコを観た。フライヤーが空中回転してレシーバーがキャッチ。シンプルにして至高、胸のすく王道の空中ブランコだ。実はこれが観たくて行ったのだが、やっぱり最後はこうでなければ、と堪能した。


たとえば、シルク・ド・ソレイユのように各公演にタイトルをつけて、全体をひとつの作品として良質の幻想を提供する、それが新しいサーカスだとすれば、ニクーリンサーカスは伝統的なサーカスの醍醐味を持つ正攻法のサーカスだ。各演目の独立性が高く、演者は一回きりの自分の出番に徹している。観客はハラハラドキドキ、手に汗握って超絶の芸を見守る。サーカス好きの太田はシルク・ド・ソレイユも勿論、大好きなのだが、ニクーリンサーカスのようなサーカスも是非是非、たくさんの人に観てもらいたいわけだ。ちなみに、好きで自腹で観に行ったので、回し者ではないよ。


ニクーリンサーカスは3月7日まで、東京ドームシティJCBホールにて公演中。


また今度、日本のサーカスのことを書く予定。

実は、すごい。日本のサーカス!!