レイモンド・カーヴァー全集 | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

ほとんどの活字中毒者と同じように、私も濫読一辺倒で同じ本を再読することはあまりないのだけれど、中にどうしても、もう一度、もう一度と引き寄せられるように読み返したくなる作家がいる。その一人が、レイモンド・カーヴァーだ。アメリカ現代文学の作家で、生涯を通して長編は書かず、短編小説と詩を残している。

カーヴァーの小説の中では、いわゆる『劇的』なことは起こらない。働いて食べて眠る平凡な日常の営みが積み重ねられていく。そんな中で、人が人であることの寄る辺なさ、自分というものの取りとめのなさが、寡黙な文体で淡々と描かれる。うまく言えないけれど、カーヴァーの描く人々は、彼ら自身が気づいた時にはもうすでに原因が思い出せないような何か癒しがたいものを抱えており、どこか途方に暮れたように流れの中を漂っているように見える。その正確に描かれた人間の不確かさに、読むたび驚かされる。
レイモンド・カーヴァー
村上春樹さんの名訳で中央公論社から全集が出ている。上の写真は自分が最初に読んだ一冊。これでノックアウトされて全集を揃えるに至った。稚拙な紹介文で恐縮ですが、興味のある方は、是非に。