うつと読書 第27回 「猟奇歌」 | ナメル読書

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時にナメたり、時にナメなかったりする、勝手気ままな読書感想文。

「猟奇歌」(夢野久作、ちくま文庫)

こんにちは てらこやです。

日本中が愛と感動に包まれるであろう今宵、それに乗じててらこやも健康的で明るくて希望あふれる作品を紹介しよう……とはぜんぜん思いませんでした。

むしろ真逆をいってやろうかと。

というわけで今回紹介するのは、よくいえば幻想文学、悪くいえば異常・変態心理小説の巨星、夢野久作です。

夢野久作といえばなんといっても「ドグラ・マグラ」。小栗虫太郎「国死館殺人事件」と並ぶ、暗黒ミステリーの名作とされています。どちらも訳が分かりません。一読してこれが分かるというひとがいるなら、相当な天才か変態かどちらかだろう、という作品です。

てらこやも学生の頃に「ドグラ・マグラ」を読み、なんじゃこりゃと言ったくちなので、詳しい筋は覚えていませんが、熱に浮かされたときにみる夢のような、すべりの悪い感触を覚えています。

そんな夢野久作が当時の小説各誌に連載した短歌……の形式を借りた異常性の吐露。それが「猟奇歌」です。ではさっそく見ていただきましょう。

第一首

殺すくらゐ 何でもない
と思ひつゝ人ごみの中を
闊歩して行く

第二首

自分より優れた者が
皆死ねばいゝにと思ひ
鏡を見てゐる

このあたりは直球勝負ですよね。次は暗黒のユーモアというべき作品です。

第三首

白い赤い
大きなお尻を並べて見せる
ナアニ八百屋の店の話さ

続いては、最短の怪談話。

第四首

水の底で
胎児は生きて動いてゐる
母体は魚に喰はれてゐるのに

最後は個人的に最も猟奇的だと感じた作品を紹介します。

第五首

頭の無い猿の形の良心が
女と俺の間に
寝てゐる

心に染み入る歌ばかりでしたね。イヒヒ……。

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