ラブイユーズは、バルザックの代表作ではないが、本領を充分に発揮した豊かな作品だった。題名は川揉み女の意味がある。枝で川をかき回してザリガニを追い込む女性をいう。耳慣れぬ題名にはさして興味を惹かれなかったが、村上春樹がすらすら読めてしまう作品と評していたので、何気なく読み始めたが、面白くて止まらない。疾走感が半端ない。ラブイユーズとあだ名された女性キャラクターは物語半ばで漸く出てくる程度であるが、登場の仕方が実に印象的だ。これ以上美しい女性はいないのではないかという描き方だ。登場する回数が多いのはフィリップという奈落者。他にもマックスという悪者が出てきて、フィリップと対決する。いわゆるピカレスクロマンである。だが焦点の当て方により、如何様にも中心として読めるキャラクターが満載で、正に人間が描けているところがさすが巨匠と思える。個人的には純粋で愛情深く、愚かな母親像に心打たれた。少し気になったのは、作者が登場人物に対し、神の視点で描いている事である。人間は矛盾とカオスを抱えているのだから、一方的な見方に思えてしまう。突っ込みどころとしてはそれぐらいだった。