日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -252ページ目

ドアチェーン

ここ数日は、仕事の都合上帰宅は深夜だった。

妻は就寝前に、玄関のドアチェーンを掛けてしまう。

そのため俺は、帰宅の際、妻の携帯を二回鳴らす。

妻はその合図で、チェーンを外す。



ここ数日は、帰宅しても妻はいなかった。

俺が床に着く頃帰って来るのだった。


妻の携帯に電話する。

繋がらなかった。

週末で、実家に帰ったのだろうと思った。

俺達が使う携帯プラットフォームは、妻の実家では何故か繋がり難かったからだ。


布団に入り、眠りに落ちる前に携帯がなった。


「今何処にいるのよ」

「家にいるよ」


俺の言葉に、妻は激怒した。


「なんで電話しない訳」

「したよ」

「してないじゃない」

ここからはもう、言葉を挟む余地はなかった。


「あんな、誰もいないような家に、私は居たくないのよ」

ひとしきり怒鳴り続け、電話が切れた。


妻が帰宅する。


また怒鳴り声だった。

「私が朝から晩までこうして忙しくしているのに、あんたはもう寝てる訳」

そして、俺が一番触れられたくない過去の話を持ち出し、更に激しく罵った。

一番触れられたくないもの。


妻にとっては、俺を打ちのめすための恰好の材料でしかなかった。


暴れ出したい衝動を、必死で抑えた。


ここで反撃しても、無意味だ。

妻のために、ストレス発散用のサンドバッグになる必要もない。

妻の言葉が、いつまでも頭の中に渦巻いていた。

悔しさが募り、俺はいつまでも眠ることが出来なかった。

戦隊ヒーロー

娘はなぜか、戦隊ヒーローものが好きだ。


名前自体が、笑ってしまうようなヒーローたち。





「まじれんじゃー、やるよ」


俺に言う。

娘は5~6人いるなかの青いやつだ。


体を斜に構え、手で何か形を作りポーズを決める。

お決まりで、名を名乗るのだが、また笑いそうになった。

マジブルー。

勇猛果敢、天真爛漫なヒーローが、マジ、ブルー。


「それじゃお父ちゃんは、マジレッドやるよ」


娘が首を振る。

「だめ。お父ちゃんはマジピンクだから」


俺は思わず、声を上げて笑った。

泣ける本

死にゆく妻との旅路

清水 久典






債権者から追われ、癌で余命いくばくもない妻と一緒に、ワゴン車一台で旅に出る話。

年の離れた夫を、おっさんと呼ぶ妻。

旅に出ることで、妻をはじめて名前で呼ぶ夫。

癌に蝕まれながらも、入院を拒み続ける妻。

その理由は、夫と離れ離れになりたくなかったから。

この話は、著者の実話を基に書かれている。



最近、休憩時間などに取り出して読んでいたのだが、人目を気にしながらも溢れ出す涙を止める事ができなかった。