「決断する力」(猪瀬直樹著) 読後感 | 富士市議会議員 鈴木幸司オフィシャルブログ Powered by Ameba

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(ボールド体の部分は本書からの引用です)

 

「危機の最中に何よりも重要なのは、ルールを守ることよりも、即断即決の実行力である・・・」

 東京都副知事の猪瀬さんが、大震災という危機の最中、如何に決断したか、非常に興味深く読ませていただきました。その主張には全面的に賛成です。しかし「戦略的」にはどうだったのか、そこの所まで掘り下げて教えていただきたいと感じました。さもないと、多くの人が書評で書かれているように「単なる自慢話」に聞こえてしまうきらいがあります。

一章をさいて「想定外をなくす」と主張されている猪瀬さんですから、福島第一についても情報を得ながら決断を重ねられたはずです。よもや「そこまでは想定しなかった」とは仰らないでしょう。

 

 原子炉がメルトダウンしていたかどうかはさておいて、問題は燃料プールでした。あのまま原子炉建屋に近付けず、千本以上の燃料棒が露出したままだったら何がおきていたか・・・。本当なら東京を含む関東全域の避難勧告が必要だったはずです。

  CH-47が空中から水をかける作戦をテレビ映像で見ながら「焼け石に水だよ」などと感想を漏らしていた「無辜の民」のほとんどは、自分たちの命が賭けの対象にされていたことに気付いていません。

あの危機に直面して、首相が自分の目で確認し、東電首脳に対し「撤退はありえない」と怒鳴り散らし、自衛隊10万人の出動を命じ、警察と自衛隊の命令系統を一本化した・・・そこまでは評価してよいと思います。しかし、日本という国家は、あの時国民の生命を守る大原則を曲げた・・・収束作戦に賭け、避難勧告を出さなかった・・・その一点において菅首相は万死に価する、リーダー失格です。 

 

 そこで、東京都の対応です。

 例えば、東京都ががれきの受入れを表明し3000件近い反対意見を寄せられた際、

石原都知事は「黙れって言えばいいんですよ、そんなの。力のある所が手伝わなくちゃ、しょうがないじゃないですか」と批判を一蹴している。これがあるべきリーダーの姿である。

と石原さんを賞賛なさっています。これにも異論はありません。

力のある所が手伝わなくちゃしょうがない・・・」その通りだと思います。収束後処理としてはその通りだと思いますが・・・。箱根から向こうには人が住めなくなる可能性があることが判った3月15日、東京都は1300万都民に対して避難準備情報を出していません。

 著者は、万が一についても想定するのがリーダーの役目だと言い、自らの著作「昭和16年夏の敗戦」を紹介しながら、精緻な戦略を立ておけば事前にシミュレーション可能で、大胆に行動できる・・・と結論付けています。

どこに精緻な戦略があったのか、あの時避難準備情報を出さなかった東京都と政府は「同じ穴の狢」だったのではないでしょうか。

 

さらに福島第一原発の事故が起きた。この問題は、直接的には菅さんのせいではないにしても、戦後ずっと想定外を繰り返してきた日本が、自分たちで掘った落とし穴に落ちたということではないか。自ら墓穴を掘った。僕はそう思う。

 そうしたご意見についても同意します。しかし、本当に私たちが欲しているのは、ではどうすれば良いのかという処方箋です。

 どんな立派な避難計画書を策定しても、実際に発動できないのでは意味がありません。走りながら考える人ばかりで、大きく俯瞰しながら全体を見られる人が見当たりません。

 衆参のねじれのために何も決められない政治が続き、今後、新しいリーダー像を探る動きが活発化することが予想されます。石原さんや猪瀬さんにも期待したのですが、この本を読んだかぎりでは少々無理かなと感じます。

(2012年7月)