【大震災の経済的影響を考えるフレームワーク】
フェイズ1 比較的短期の時期 :ストックの滅失とフローの大幅ダウン
フェイズ2 ある程度時間が経過した後 :フローのダウンが小さくなり、ストックの回復が投資需要となる
フェイズ3 アップダウンが終わった後の時期 :本当の成長戦略が求められる時
一年以上震災から時間がたちました。 被災地の復興はこれから考えなければならない、そして今考えなければならない問題です。のちほど皆さんの意見を聞かせてください。
まず時間で区切るフレームワークがあります。
フェイズ1、フェイズ2、フェイズ3・・・
(※上記表題の3分類です)
もう一つは経済学的な分け方
経済を勉強した方には解ると思いますが 企業会計で言えば貸借対照表がストック、損益計算書がフロー。
経済にもフローとストックがあります。
まずストックを見ると フェイズ1 (比較的短期の時期)でなにが問題かというと「ストックが消えたこと」です。 フェイズ2 ではこれを立て直していくことになります。
次にフロー
フェイズ1において被災地では経済活動が不可能になりました。 フェイズ2ではそれがだんだん戻ってきます。
そこで
経済成長率だけを見るとフェイズ2では以前より高くなっています。
一見すると震災は経済成長率にプラスの効果があったように見えます。
しかし、例えれば
皆さんの家が焼けてしまった。 立て直しのために奥さんも働きに出る。 年収は高くなる。だが、ストックは消えている。 良かったですねとは言えないですね。
これをもうちょっと具体的に見ると、内閣府が推計を出しています。 これから合計約17兆円のストックが消えたことがわかります。(阪神の1.7倍)
震災直後にフローが落ちたことは鉱工業生産指数で解ります。 3月一ヶ月で「全国で」15%の生産が落ちています。
地域別に見ると東北は35%ダウン、これは当然です。
問題はそれ以外の地域 東海が20%ダウン、九州でも10%ダウン、つまり被災地と関係の無い地域でも生産が落ちていることが問題です。 また大型小売店販売額は 東北で7.6%ダウン、これはわかる。しかし全国でも2.6%ダウンしています。これが大きな特徴です。 今回はどうしてこんなことが起きたのか。 サプライチェーンネットワークの問題です。 日本全国の工場がネットワークでつながっている。 調達先が被災、そして調達先の調達先が被災して、サプライチェーンネットワークが切れてしまった。そこが切れると全国的に原材料や部品の調達が滞ってしまう。これは世界的にも影響があったといわれます。
そして消費の減退は「自粛ムード」によるものが大きいと思います。そして計画停電。 消費の落ち込みは消費マインドの落ち込みでもあります。
このフェイズ1とフェイズ2の私が説明した違いは、震災直後から殆どのエコノミストも常識的に予測していたことがわかります。(ESPフォーキャスト調査による)
しかし、景気循環という観点から、つまり日本全体の景気の動きという観点から言えば、リーマンショックに比べればあまり大きくなかったといえます。殆ど無視できる、景気が悪くなったということではない、一時的に落ちただけと理解していただきたい。
フェイズ1とフェイズ2のの違い。 フェイズ1では
・政策目的は極めて明確。人命救助・被災者支援。
・コストを意識せずあらゆる政策手段を投入 トレードオフ関係はない。
・人々の善意と同朋意識がそれを支えます。
本当に難しいのはフェイズ2、どうやって復興したらよいのか
・政策的には多様な議論、方向性を巡って多様な議論が起きます。
・財源問題、土地利用、災害補償などのトレードオフ関係が生じる。
・それを支えるものとして、政治的リーダーシップに基づく選択と集中、経済性合理性を貫いた経済政策が必要になります。
フェイズ1では日本はうまく対応できたが、フェイズ2ではボロが出てきた。
これほどの震災があっても超党派で対応できなかった。
フェイズ1では国際的に絶賛された。 「考えられる最悪の災害が、考えられる最良の人種を襲った」
ではそれぞれの人は何を考えていたか。 二つの局面における各主体の対応
(国民) フェイズ1・被災地における冷静な対応、ボランティアへの参加、寄付、節電 フェイズ2・増税への対応、電力不足への対応
(企業) フェイズ1・優れた現場力: クロネコヤマトの例、 開栓隊の例、ライバルを超えて集まった自動車会社技術者たちの例 フェイズ2・空洞化対応、グローバル化
(政治) フェイズ1・超党派での取り組みが出来ずに対応に遅れ フェイズ2・選択と集中による復興、国民に応分の負担を求める姿勢
フェイズ2になってくると「善意」に頼っていたのでは話が進まない。 スローライフや集約的システムからの脱却という考え方・・・なんで震災を機にそういう考え方にしなければならないのか理解できない。
市場原理主義だったから津波が来たわけではない。
むしろ復興にこそ、 「効率最優先・市場原理・集約的システム」つまり選択と集中が必要なはずだ。
復興の中で現れた課題をいくつか上げると、
①復興需要はサスティナブルな成長につながるのか、繋がらない。切れてしまえば終わり。(雇用のミスマッチと産業構造のミスマッチ)建設現場には全国から労働者が集まっている。
②人口流出による負のヒステリシス 東京一極集中はやや減っている。そして東北全体からかなりの人が表に出て行ってしまった。もとに戻らない、それが負のヒステリシス。
③人口減少地域と増加地域の復興戦略
ストックが人々をつなぎとめていた。 震災によってストックが消えてしまった。それによって本来減らなくてもいい人口が東北から移動を始めた。
発展地域と衰退地域で震災の影響は違う。発展地域では復元してさらに発展することが可能。衰退地域はそもそも復元が難しい。ストックがなくなったことを前提にして新たな戦略を考えてもらいたい。 例として「奥尻と神戸の違い」「宮城県亘理町から北海道伊達市へのイチゴ農家の移住」
④震災を新たな地域成長の機会に転嫁できるか
復興の中で次の発展の芽を育てることを考えていただきたい。
最後に四川大地震と東日本大震災の違い。中国は震災保存という考え方をして、教育的にそして観光資源として残すことにした。(遺体もそのまま)
被災地の目で見て考えるか、それともオール日本の目で考えるかという視点が必要。
現世代の私たちの目で考えるか、それとも将来の人たちの目で考えるか。
今回の震災の体験を後世に伝えることも必要だという問題もあります。
私の話は以上です。
小峰教授
(2012年当時の講義ノート 書き起こし)