たらい回しゼロ!救急車を断らない「沖縄県立中部病院」 | 富士市議会議員 鈴木幸司オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 視察日:2016年(平成28年)120

 

たらいまわしゼロ! 救急車を断らない「沖縄県立中部病院」

 

1.  医療機関の概要

医療機関名             沖縄県立中部病院

URL                          http://www.hosp.pref.okinawa.jp/chubu/

住所                          904-2293 沖縄県うるま市宮里281番地

代表電話                   098-973-4111

創業・設立年             1946年(昭和21年)

敷地面積                   41,7232

建物延べ面積            34,2672

建物構造                   RC造 地下1階 地上17階建て

職員数                      診療部門117名、看護部門548名、診療協力部門116名、

                                 管理部門45名  合計826

付属診療所               1(津堅診療所)         

診療科目                           
内科/呼吸器科/消化器科/循環器科/医療情報科/神経内科/小児科/外科/心臓血管外科/ 整形外科/脳神経外科/皮膚科/泌尿器科/産科/婦人科/眼科/歯科口腔外科/麻酔科/ 病理検査科/放射線科/耳鼻咽喉科/精神神経科/地域救命救急診療科/呼吸器外科/小児外科/ 形成外科/リハビリテーション科/リウマチ科

許可病床数           550床(一般546床 感染4床)

機関指定                           
救命救急指定病院/臨床修練指定病院/琉球大学医学部関連教育病院/看護教育実習指定病院/ 労災保険指定病院/更正医療指定医療機関(口腔、整形外科、中枢神経、心臓血管外科、腎臓、じん移植に関する医療)/ 臨床研修病院/地域医療支援病院/エイズ医療拠点病院/第2種感染症指定医療機関/人工透析従事者研修指定病院 日本医療機能評価機構認定病院/地域がん診療連携拠点病院

 

. 基本理念

 「沖縄県立中部病院の理念と使命」

 私たちは、すべての県民がいつでも、どこでも、安心して、 満足できる医療を提供します。

1.患者中心主義 : Patient Focused

             私たちは、24時間、365日、すべての人々に平等に医療を提供します。

             私たちは、それぞれの患者さまに最適な医療を提供します。

             私たちは、安心して安全な医療を受けることのできる環境を提供します。

2.社会的貢献 : Social Contribution

             私たちは、離島医療を支援し、予防医療を担います。

             私たちは、人間性豊かな医療人を育てます。

             私たちは、医療資源を大切に使い、効率的な経営を行います。

             私たちは、国際保健医療に貢献します。

3.チームワーク : Fine Teamwork

             私たちは、互いを尊重し、力を合わせて、あらゆる問題を解決します。

             私たちは、安全で、安心して、生き生きと仕事ができる職場を作ります。

 

. 沿革

 終戦後の沖縄の医療事情は劣悪で、米軍統治下の沖縄は医師確保対策として日本国内の大学に「留学」させる特別な奨学制度を作成。 しかし当時の沖縄には卒後臨床教育のための施設や臨床研修プログラムがないことから、医師不足解消の成果をあげることは出来なかった。

 この状況を打開するために、1967年にハワイ大学と提携した臨床研修プログラムがスタート。

 臨床重視の研修プログラムは年月を経るにつれて次第に全国から注目を浴びるようになり、1973年から後期研修を2年追加。1983年から、後期研修終了者に1年の離島勤務が義務化され、以来修了生が離島医療の大きな戦力となる。1996年には研修終了後離島で自立した診療のできる医師作りのために、プライマリケアコースを新設。指導医と研修医のモチベーションを高めるために米国での臨床研修を導入。病院内外の諸関連施設と連携を深めつつ、改革・改善を繰り返しながら現在に至る。

 

4.感想

 以前、東海大学救急救命センターの山本教授のお話を伺ったことがある。センターへの搬送数が年間8000件と倍増。患者が入院して一定の処置が終わって、次に行ってほしいのだが、神奈川県には回復期・慢性期の療養病床が少ない。患者さんが次に行ってくれる受け皿が無いと、とくに都市部では救急車が搬送する先がない…そういう事態に陥りつつある。それが救急医療の「出口問題」であり、「たらい回し」の原因となっているという話だった。

 そんな当時あるニュース番組を見た。『たらい回しゼロ!救急車を断らない病院』というタイトルで、そんな夢のような病院があるんだと溜め息をついた覚えがある。今回、実際に「ニュースJAPAN」の映像も見せていただいた。つまりそれが今回視察した沖縄県立中部病院のことだった。

 富士市の基幹病院である富士市立中央病院が「520床・延べ床面積30,8122なので、規模としては同じくらい。そんな県立中部病院が、すべての救急車を断らないという秘密はどこにあるのか、それを探るのが今回の視察の目的。

 最初に結論を述べておくが、それは「施設規模や医療設備の違い」ではなく「理念の違い」だということだ。

 中部病院の基本理念のキーワードは「すべての」という言葉。

 「私たちは、24時間、365日、すべての人々に平等に医療を提供します」という診療方針を実践するためには、実は様々なことを切り捨てている。

 プライマリケアを標榜しているため年間7417件(平成25年度)の救急搬送があり、病床の6割をそうした患者が占めることになる。病床利用率は97%を超え、平均在院日数は12日。もう少し居たいという患者の希望にこたえることは出来ない。一般外来の患者にも我慢を強いることになる。救急車が入ってくるたびに待ち時間は長くなる。

 それでもこのER型救急システムを採用し、すべての救急搬送を受け入れるという方針を貫き続け、そして全国から、医者の卵たちがこの病院で働きたいと押し寄せる。毎年、そのうちの2030名ほどを選抜し、平均5年で一人前に仕上げる。その後は離島医療に一人で従事する医者もいる。実際に「ドクターコトー」を養成しているのだ。

 特筆すべきはその臨床研修制度。現在も80人以上の研修医が在籍しているが、最初の2年間は寮生活。そしてその教育システムは「屋根瓦方式」と呼ばれる指導体制と自由な討論を基本としたグループ診療だ。一回生を二回生が、二回生を三回生が教えながら、指導医のもとで一年間1400人以上の患者を診る。チーム医療が徹底しており、複数シフトの24時間3交代勤務の中でこれだけの症例を体験して初めて「医師としての最低条件」が身につくと県立中部大学の上原院長は言う。

 従来の1・2・3次救急システムの問題点は、医療する側が自分たちの診療範囲(軽症、中等症、重症)を決めていることだ。患者の立場からすると自分が中等症なのか重症なのかはわからない。2次救急施設に3次救急患者が来院した場合、高次施設へ転送することが原則となっているが、このシステムもあまり機能していない。その理由は二つ。一つは、軽症患者のように見えて実は重症患者だったというケースを正確に診断することができないこと。そして二つ目が、それができないために重症患者と確定されていない患者は高次施設が必ずしも引き受けてはくれない。つまり1・2・3次救急システムは、軽症・中等症・重症患者に対する治療が主な医療で、それを選別する診断や選別法(advanced triage)が不十分なところが問題。

 言い換えれば、医療する側と受ける側とのギャップ(患者が求める医療と提供する医療機関の医療が必ずしも合致するわけではない)が生じることが問題なのだといえる。これを解決する方策が「ERドクター」の養成であり、県立中部病院のような「ER型救急システム」への転換であることは想像に難くない。

 最後に県立中部病院のウエブサイトから、前出の上原院長の挨拶を引用する。

 

 平成2741日より新院長に就任した上原 元です。伝統ある病院ですので責任の重大さに身の引き締まる思いです。
 1967年、米国の統治下で、終戦後の医師不足を打開すべく、あらゆる疾患に対応でき、即戦力のある医師の養成を目指して、当院で始まった北米方式による医師臨床研修は、沖縄の祖国復帰後も途絶えることなく進化し続け、全国から研修医が集まっています。研修開始から50年近く経ち、当院で研修を受けた医師は既に1000名を超えています。
 研修修了後は、沖縄県内に留まって当院を含む県内大病院あるいは離島診療所等で活躍し、地元の医療に大いに貢献している医師も多いのですが、優れた臨床指導医として全国に名をとどろかせ、日本の臨床医学教育のリーダーとなっている医師も多数輩出しています。また、米国に留学し、そのまま米国で活躍している医師もいます。このように、当院での研修は、それこそ将来、離島から、全国、米国に至るまであらゆる場所で活躍できる臨床的基礎を作ります。将来どの道に進むにせよ、当院での研修はきっと役に立つと確信します。
 当院では、患者中心の医療を行うことを大前提として、幅広い疾患に対応できる臨床研修、救急医療、離島医療支援、地域医療支援を病院の基本的使命と考えています。この四つは互いに連動しており、どれかが欠けても当院ひいては沖縄県の医療の存続が危うくなります。今後ともこの使命の達成のため、日々努力を重ねていきたいと思います。

平成27年4月吉日  中部病院 院長 上原 元

 

 中部病院の健闘を祈りたい。

 

(文責:鈴木幸司)