8/20自治政策講座
第3講義
「これからの自治体財政」ー地方財政計画と課題
神野直彦 地方財政審議会会長
1.歴史の「峠」としての「危機(crisis)」を乗り越える
crisisつまり「分かれ道」
峠を越えると違った風景が現れる。
パクスブリタニカ
自由主義国家、夜警国家(小さな政府)、軽工業中心の工業社会
↓
1929年の世界恐慌
↓
パクスアメリカーナ
民主主義国家、福祉国家(大きな政府)、重工業基軸の工業社会
↓
現在の世界恐慌
↓
パクスヨーロッパorパクスチャイナ
頭脳産業基軸の知識社会
1929年の世界恐慌時、ロンドンエコノミストはスウェーデンを「絶望の海に浮かぶ希望の島」と賛美した。
(福祉国家の出現は予告されていた)
2,「参加なき所得再配分国家」としての福祉国家
publicという概念、
日本語訳が「公用」というのは誤り。(例えば「公用車」)
日本人はpublicを「官」と思い込んでいる。公用とは、官により民に無料で提供されるサービス。
地方自治体とは国境を管理しないオープンな政府。
国家とは国境を管理したクローズな政府。
土地、労働という本源的生産要素は、境界管理が可能である。
しかし資本という生産資本は自由に動き回る。
そこで第二次世界大戦後は資本統制を国民国家に認めた。
ブレトンウッズ体制という世界経済秩序を形成し、国内の所得再分配と「自由貿易」とを両立させた。
3.福祉国家の行き詰まり
石油ショックによる固定相場制から変動相場制へ移行。
グローバル化とは資本が国境を越えて自由に飛び回ること。
そうなると福祉国家の所得再配分は機能不全に陥る。
⑴経済成長と再分配の幸せな結婚(1970年代)
⑵福祉国家の動揺(1980年代)
⑶ポスト福祉国家の模索(1990年代)
4.グローバル化とローカル化
現金給付による所得再配分の限界(資本は飛び回る)
そこで
サービスの提供による所得再配分(人は地域に固定されている)
ボーダレス化やグローバル化に対応して、ヨーロッパでは国民国家を超える超国民国家機関としてのEUを創設すると共に、1985年に「ヨーロッパ地方自治憲章」を制定し、地方分権を推進する。これが世界的に地方分権改革の潮流を巻き起こす契機となる。
\マルクがユーロに対して低すぎる。
\ドラクマがユーロに対して高すぎる。
\これがギリシャ危機の正体。
ギリシャが苦しいのは通貨を持たないのに財政を持たされているから。
同様に
地方自治体が苦しいのは通貨を持たないのに財政を持たされているから。
そこで日本は地方自治体ごとに標準財政規模に応じて交付金を支出する。財政調整制度。
しかし日本には「教育」が公共財という考え方がない。
日本人は「教育」は個人の利益と考えるが、欧米では「教育」は公の利益と考える。だから欧米では全ての教育は無料。
また、日本には「住宅」が公共財という考え方がない。
5.地方自治体の使命拡大
(通貨を握っている)中央政府の「現金」給付による所得再配分の限界を、現物給付・サービス給付による生活保障で補完する動きが出てくる。
しかし、現物給付・サービス給付は地方自治体しかできない。
そこで地方分権を推進して福祉・教育・医療という対人社会サービスの現物給付による生活保障が目指されることになる。
これが次の時代の国家のあるべき姿であり、地方自治体の使命は急激に拡大している。
これが地方分権改革の歴史的意義である。