富士市の産業集積、その現状と必要な政策 | 富士市議会議員 鈴木幸司オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 富士市は 製紙工業の盛んな町です。 王子製紙・日本製紙などの大企業の他, 数多くの中小製紙工場を含めると, 製紙工場は市内に70社近くあり、事業所数ではいまだに全国一です。 紙の総生産量でも全国12%のシェアを占めています。(トイレットペーパーに関しては生産量日本一)

 もともと富士市は、東海道ベルト地帯と甲府盆地から駿河の国を結ぶ「塩の道」そして富士川を利用した河川輸送の結節点でもあり、つまりは交通の要衝に位置していました。

 富士山からの豊富な水源と森林資源を持つことに目を付けた渋沢栄一氏設立の「王子製紙」が、鷹岡地区に旧富士製紙「一号機」を建設、富士市製紙産業の黎明期を切り拓きました。

 ちなみに当時の地図にはこの「一号機」という地名が残されており、国鉄鈴川駅までの「馬車鉄道」によって大量の紙製品が「東京」へと輸送されたことが記されています。

 最初は水車によって得た軸力をベルトとプーリーで伝えて製紙機械を動かしていましたが、その後これが「水力発電」となって、余った電力を電線を通じて地域に供給する事が可能になり、多くの中小の製紙工場が競うように起業していくことになります。(この富士川発電はのちに東京電力に合併されます)

 

 2011年の紙・板紙合計の輸入量は、東日本大震災に伴う供給不安や円高の進行等から前年比16.7%増の209万トンと過去最高を記録しました。(主な相手先は、中国とインドネシア) 逆に輸出量は、前年比35.1%減の95万トン。(相手国としては、中国や韓国、また近年増勢の兆しを見せるオーストラリア向けが中心です)

 ※数字はすべて日本製紙連合会ホームページより引用しました。

 

 富士市の大手製紙会社はここ数年来統廃合を繰り返し、輸出や輸入といった国際競争に強い体質強化に努めてきたことが見てとれます。

 そんな中で中小の製紙会社は、王子や日本製紙といった大手メーカーの系列に入って生き残りをはかるか、リサイクルペーパーや高分子ポリマーを利用した製品など特色のある製品に特化して行く・・・といった道を探っているのが現状です。

 

 3ヶ月に渡って「産業集積論」を学んだわけですが、この教えを現実の産業政策に反映させようとすれば二つの方法があると思います。つまり弱点を補強するか、強みを生かしていくかの二通りです。

 

 例えば、マーシャルの集積論の受け売りですが、1情報、2労働力、3関連産業、この三つが集まれば集まるほど有利になっていくというのならば、富士市の産業集積の弱点がこの「情報力」にあることは明白です。文科省の奨める「知のクラスター」の部分が決定的に少ないのです。

 まず、知のクラスターの中心となるべき高等教育機関が存在しません。経産省主導の工業技術センターはありますが、一緒に学んだつまり「同じ釜の飯を食った」という言葉に現されるような横のつながりが弱いのです。

 個々の企業は最新の技術や情報を持ちながら、ライバルに開示することはありません。つまりシリコンバレーに見られた「徹底的な情報共有」が存在しておりません。

 同業者の集まりやサロンなどで行われる情報交換は世間話の程度にとどまり、下手に値段を教えるとそれよりも低い値段でクライアントに売り込まれてしまう・・・といった、まさに授業で学んだ「衰退していく観光地」「衰退していく産業集積」の例を地で行くような状況です。

 ですから一つ目の方法としては高等教育機関・研究機関の誘致があります。

 実は、富士市には旭化成の総合研究所があります。生産現場は縮小を重ねましたが、「富士山の見えるところで国際会議を開くと、世界中の研究者が喜んで集まってくる」

ということで、旭化成はここに研究施設を集約しました。

 それと同じことを製紙業界でも政策的に出来ないか・・・というのが一つ目です。

 

 二つ目は「強みを生かす」という政策です。

 統廃合で、往年の半分にまで事業所数を減らしてはいるものの、富士市には関連産業の広がりがあります。東日本大震災で被災した企業がこの地に移転してきたことがニュースになりました。その企業は「製紙機械」を製造している会社でした。

 横のつながりは弱くても、関連産業に連なる縦のつながりには堅固なものがあります。プラートの繊維産業の集積に見られたようなクラフトマンシップが富士市には存在しています。新しいものに挑戦する気質も豊富です。

 紙・パルプ産業から、紙を利用した建材の開発、紙加工や出版業などの紙関連分野への進出を図れば、新しい産業が花開くかもしれません。それほど紙に関する「ノウハウ」そして「ノウフー」が大量に存在しているのが富士市の強みでもあります。こうした生産技術を散逸させることは実に勿体無いことだと思います。大企業の傘下に入ることでそうした技術が失われてしまう前に新たな地平を目指す、新規事業を起こす人たちを応援する・・・そうした政策が必要だと考えます。

 元はといえば、ブラックローソン社から輸入した一台の「抄紙機械が」始まりです。

 それから100年で、日本一の製紙の産業集積地を形成したのです。日本一高い富士山のように「日本一高い企業家スピリッツ」を活かすことが、今の富士市に求められているのだと信じてやみません。

鈴木幸司