耳の話 その5 大学合唱とプロ合唱 | 小迫良成の【歌ブログ】

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「唱歌是生活的乐趣(歌は人生の喜び)」
「有歌声的生活(歌と共に歩む人生)」
 この言葉を心の銘と刻み込み
 歌の世界に生きてきた
 或る音楽家の心の記憶

前回のブログでは

音楽大学における

3学年合同の合唱授業が

クラシック歌手を目指す者にとって

ひとつの大きな「罠」になっていると

書き述べた。

 

これは同時に

80年代当時の音楽大学での

各学生の個人レッスンを担当する

声楽の先生諸氏の多くが

合唱の授業をさほど重要視せず、

むしろ生徒を潰す恐れがあるとして

危険視していたことにも通じる。

 

曰く

「変な癖がつく」

曰く

「レッスンのカリキュラムを乱す」…

 

…ハハハ…

 

声楽の個人レッスンを担当する

教授から講師に至るまでの先生達にも

それぞれの思惑があったりして、

私のようなスレまくった学生から見たら

「どっちもどっちじゃん」

と興醒めする思いではあったけど、

それなりに

「故なきにしもあらずか」

という印象は持っていたな。

 

個人レッスンでは

学生それぞれの進み具合に合わせて

学ぶ曲を選んだり

「今回の攻略ポイントはここ」

という形で曲の部分活用もできるけど、

合唱については全員一律待ったなしに

大学の都合で曲が決められる。

 

それも

「何月何日本番」という期限付きで

完成品を用意せねばならないのだから、

学生個々の演奏レベルなどおかまいなしに

「ここのフレーズ、

 めっちゃ難解だし音域もきついけど

 ちゃんと声出して歌ってね!」

って無茶ぶりを要求されたりする。

 

個人レッスンの先生が

カリカリするのもむべなるかな…

 

…で、

先生たちは生徒に言うわけだ。

「合唱の授業は手を抜いてね」

「ま、そこは適当に、テキトウに」

 

酷い場合ではレッスンの先生が

合唱の先生達に怒鳴り込むことも

あったらしいし、

先生同士の上下左右の力関係もあったりで、

まあ学生達もその辺りは

全て「お察し」した上で

上手につきあっていたと思う。

 

 

さて、

音楽大学の合唱では

以上の事由などにより

中学高校のクラブ活動とは異なる

ある意味「雑多な集まり」となって

道を外しやすい危険地帯と化す訳だが、

それではプロの合唱団はどうかというと

「…うーん、内実はねえ…」

となってしまう。

 

皆が皆、同じ目的をもって

それぞれが力を出し合い

有機的に動ける集団であるなら、

単なる「見世物芸」ではなく

「芸術・アート」の域にまで

到達することも不可能じゃない筈なのだが、

なかなかそうは問屋がおろしては

くれなかったりするのが現状。

 

大学合唱が

同じ声楽の道を志していても

その目標が十人十色であるのと同様、

プロの合唱団においても

同じ合唱カラーの下に

集っている筈なのに、

個々の合唱メンバーに焦点を当てると

十人十色どころか

全く相反する者達まで

雑多にいたりするのだ。

 

「学生のバイト」や

「留学するまでのバイト」

として参加する者はまだいい。

 

「合唱が好きで好きで

 とにかくあの音と響きの

 奔流の中に身を置きたい」

という合唱マニアは

本来、合唱団の主体になって

しかるべき存在。

 

だが、相変わらず

「オレ、合唱なんて好きじゃないし

 オレが本当にいる処じゃないけど、

 ソロの仕事ってそんなにないし、

 まあ稽古に出ればそれだけで

 そこそこの金になったりするしね」

なんて輩は少なからずいるし、

「ハア?何のため?

 生活のために決まってるだろ。

 それよりさー、

 そこの自販機で缶コーヒー買うなら

 缶についてるシールくれない?

 集めてプレゼント企画に応募するんだ。」

などと端からまともに歌う気すら持たぬ

「でもしか」系の年配団員もいたりする。

 

合唱団によっても異なるが

オペラのソリストが

稽古回数に関係なく

「本番舞台1回につき〇〇万円」

という契約であるのに対し、

合唱団員は

「稽古1回3時間で〇千円、

 ゲネ1回半日拘束で〇千円、

 本番1回終日拘束で〇万円」

といった

稽古毎にギャラが加算される

タイプの契約であることが多く、

それが

「稽古には毎回律義に顔を出すが

 できるだけ手を抜きたがる輩」

作り出してしまう結果ともなっている。

 

若い、

まだ十分に野心と向上心を持っている者は

こうしたどこの合唱団に少なからずいる

この種のヴェテ(ベテラン団員)の姿を見て

「あんな風にはなりたくないよなあ…」

と嫌悪感を抱き、

ヴェテはヴェテで若い連中を見ては

「あ~あ張り切っちゃって。

 あんまり張り切られても

 こっちは迷惑なんだよね。

 そんなに頑張ったところで

 それで貰えるギャラが変わる訳じゃなし、

 もっと力を抜いて気楽にいこうよ。」

と、彼らの熱意に水を差したりするのだ。

 

・・・うーむ、

思い出しただけで

ムカムカしてきたぞ・・・

 

ワハハ、今回は脱線気味だな。

 

次回、伏線回収ということで。

 

※写真は某オペラの舞台稽古より