父は申し訳なさそうに母に紙を渡していた。
でもその紙を私は1度も見たことがなかった。
ある日、母が「お父さんの書いた文字見たことがないやろ。」
そう言って母が私に紙を差し出した。
私は父の文字をこれまで見たことがなかった。
初めて見た父の文字だった。
父の文字は衝撃だった。
書き慣れない文字ではあったが濃い鉛筆で書かれていた。
ちょっと丸っこい文字で少し震えたようなひらがなで書かれていたのがちらっと見えた。
あぁ、でも声が出なかった。
すぐに母が手元に引き戻した。
「こんなにしてでも書いて持って帰ってくるんや。協力してあげんとなあ。」
と今にも涙が出そうな顔をしていた。
あんまりだ、本当に父も母も可哀想すぎる。
紙も何かの紙の切れ端のような紙だった。
そのクシャクシャに丸めた紙を綺麗に延ばして母は見ているのだろう。
なんというか切なくて哀しくてでも現実なんだと思った。
そう確かに思った。でもどうすることもできない。
私には何の力もないのだった。
自分の無力を感じた。
いつまでこのカロリー計算の提出が続くのだろうか?
そして医療現場にいる人たちはなんて高飛車なんだろうか、必死で生きようとしている父やそれを支えている家族にまだまだ負担を平気でかかえさすのか、これでもか、これでもかと。
怒りで一杯になった。
でもそれが私達家族以外にはどこにも誰にも伝わることはなかった。