先日、大工の棟梁と話していて、雇用の話題になった。
 初老の棟梁いわく、昔は丁稚からはじめて、三度の飯と少しの休みだけで一人前になるまで必死でがんばった。早く手に職がつき、一人前になるとまとまったお金をもらい独立できた。今、経営者となり、仕事ができるできないにかかわらず初任給を払う時代になって、負担が大きすぎて新規の雇用が難しい、と。
 西陣もまったく同じで、一人前になるのは時間がかかる。今では考えられないが、昔は「受取り」といって雇用であっても織った分だけの賃金の支払いで、織り手さんは必死で頑張った。なので初老の職人はとても手が早い。
 今は当然だが労働コストが最初から発生する。当社は力織機だが、例えば爪掻き本綴れだと尚更たいへんだろう。綴れの親方が新人も親方もツラいと言っていた。新人も成果物ができず難物の山の中で給料をもらうのがプレッシャーだという。
 結局、建設業界では自社での社員育成をあきらめ一人親方を探す。西陣では出機を探す。一人親方も出機も誰かに教えてもらわないと増えないが、その枠組みがなくなり減っていく一方である。
 職人の世界が、正社員だけを守る現在の社会のルールのために崩壊していく。