「人類の起源」(篠田謙一著:中公新書、960円+税、295ページ)は、「新書」の容量に人類の起源とその地球上での展開に関する研究が凝縮してあります。この本の内容だけでNHKなどは幾つもの「人類の起源」「日本人の起源」番組を組めているほど(私は3番組見ています)。
人間とチンパンジーが分岐したのは700万年前と分析されていますが、その後の人類の足取りを人骨、歯、髪の毛などの身体の一部、居住していた後から採取されるたんぱく質など分析して「私達」ホモサピエンスの来歴をあきらかにしていきます。
とくにここ10万年ほどはDNA解析が出来るのでかなり正確な資料が得られています。10万年とはネアンデルタール人がホモサピエンスと併存して存在していたとき。そして未知であったけれどもDNA分析から(とくにY染色体分析から)浮かび上がってきたデニソア人が存在していたときです。デニソア人はネアンデルタールともホモサピエンスとも交配して、そのDNAを私達の中にしっかりと残しています。
この本にまとめられている2021年までの人類学者達の研究は、これまでの様々な「常識」を覆します。
まず、ネアンデルタール人やデニソワ人は、完全に「絶滅」していないこと。彼らは私達の中の遺伝子(DNA)に残っています。彼らの存在をもって、私達の「ヒトゲノム」は成り立っているのです。
次に、ホモサピエンスの肌色はオリジナルは濃い褐色で、その肌色を以て「出アフリカ」したホモサピエンス(5~6万年前)が、20万年ほど前に「出アフリカ」して欧州に分布していたネアンデルタール人の遺伝子を受け継ぎ、次第に白色の肌、金髪、青い眼を得て高緯度地域に適応したこと。等々・・・。
そして、気になる日本人の起源はというと・・・・。
「縄文人」も「弥生人」も、一筋縄ではいかない。
とくに、「~~人」という「人種」でとらえようとすると、わたしたちは「ヒト」のもつ来歴の多様性に直面してしまいます。
「~~人」とは「DNA情報」上の区分けなのか?それとも「文化」なのか?「言語」なのか?
「言語」によるグループ分けが一番新しいのはわかります。USAの非「日本人」コミュニティーで育った「日本人」のネイティブな言語は「英語」になるし、外国籍でも日本で小中学校で教育受けた子供は「日本語」が第一言語、「母国語」を十分にこなせないことが多い。それに、意識的に「今日からはロシア後を公用語する」とか「純粋なウクライナ語を使おう」なんて、ほとんど同様な言語社会を意識的(政治的)に区別する試みは今も行われています(「民族」が再生産されています)。そして,研究では「言語」世界と「DNA近接集団」のずれもあります。「文化」となると・・・。一つの文化が複数のDNA近接集団から成り立っている。「民族」集団は「DNA集団」と必ずしも一致しないのです。
日本では複数の傾向を持っていた「縄文人」が、あらたな農耕文化を持つ弥生人と出会って、短期間に「弥生文化」に変化するという経験までしています。
そう考えると「文化」「国家」民族」「人種」とはなにか?
ホモサピエンス(あるいはそれを構成する遺伝子を持つ種)は「1種」です。本書でも「人種区分は、科学的・客観的なものでなく、恣意的なものだということを知っておく必要があります」(256ページ)と釘が刺されています。
筆者はいいます「本書でいう「人類」は、多様な動物の総称だということを意識しておいてください」と。
一方、他者(集団)と自分(集団)を区別せずにはいられない人間の性(あるいは動物としての性?)があります。その考えは時に「神話」として形成されて「民族」の根拠として語られたりします。その「神話」も「人類」の貴重な財産には違いないけど。しかし、「神話」を「真実」として扱ったり、それによる国家統合思想にすがった政治を試みたり、新しい「国家神話」を作ろうとするのは、かなり危ない。
「人類の起源」を科学するなかで、私達は「人類」の多様性を私達の本性として位置づけたく思うのです。
長くなったので今日はここまで(次回は来週?日本に限ると現在の埼玉県の集団形成が面白いかも)。
本の紹介は上手く出来なかったけど(私の力量不足)・・・。
最後に、著者はこの本のはじめの方(3ページ)で述べています。(この本の内容は2021年段階の研究結果によるので、今後変わりえる)「『科学は間違うものだ』という認識は重要」って。この考え方が「科学」なのかな?
☆写真/画像は上から、昨日の「北参道」カワヅザクラ。もう葉桜になりかけています。この桜が散り始めると新宿南口や新宿中央公園のエドヒガン桜やタカトウコヒガン桜が咲き始め、それが散り始めるころ・・・。街の至る所でソメイヨシノが咲き始めます。2枚目は「人類の起源」の表紙。3枚目と4枚目は本書に挿入されている図から(4枚目の右側の復元された顔は、700万年前にチンパンジーと分かれた頃の人類です。5枚目は、平野千果子さんの「人種主義の歴史」。この本は私達が現代に至るまで、いかに権力を持つものに都合良く「人種」を(文化的、政治的に)作り上げてきたかが述べられています。
↓去年の今日のブログです。昔のモノクロ写真を載せて懐かしんでいます。
※明日(3月3日金曜日はブログを休みます)。