時代劇専門チャンネルにて6月24日(月)から『雪姫隠密道中記』が開始される。
雪姫隠密道中記|365日時代劇だけを放送する唯一のチャンネル時代劇専門チャンネル (jidaigeki.com)
1980年4月5日よりTBSの土曜10時枠で半年間に渡って放送されたもの。準キー局の毎日放送が制作を担当する枠であり、1975年春改編期のネットチェンジ前、いわゆる腸捻転解消前は朝日放送が人気時代劇「必殺シリーズ」(制作:松竹)を制作していた枠でもあった。だから、腸捻転解消の当初はこの時間枠の趣向を維持したいTBSが毎日放送に要請して東映で作らせた、「必殺シリーズ」の亜流となる『影同心』→『影同心II』だったり、その後を引き継いだのは荒唐無稽なニュー時代劇の先駆けとなった『隠し目付参上』(制作:三船プロ)→『江戸特捜指令』(制作:三船プロ)と時代劇路線を敷いていた次第。1977年からは当時流行していた角川映画の制作元、角川春樹事務所と提携して角川映画で用いたのと同じ原作、もしくは同じ原作者の作品を用いた現代劇の連続サスペンスドラマを放送していた。
東映時代劇YouTube開設、「影同心」などが無料視聴可能 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)
東映チャンネルで今月まで放送していた『人間の証明』、来月から放送する『腐食の構造』などはこの枠でのものである。
東映チャンネル | 人間の証明(TV) 毎週(金)15:00~17:00 (toeich.jp)
東映チャンネル | 腐蝕の構造 7月12日(金) 放送スタート!毎週(金)15:00~17:00 (toeich.jp)
このサスペンス路線で当たりを出して大成功したんだけど、角川書店から出版されている“原作もの”という縛りにして1クールかそれ以下の期間にしたミニシリーズで矢継ぎ早に作っていったものだから段々とネタ枯れしていった。
そうして1980年春改編期、再び時代劇に戻る。当時はドラマ全盛時代、とりわけ娯楽時代劇がウケていた。とくにTBS月曜8時「ナショナル劇場」枠の『水戸黄門』は毎週当たり前のよう視聴率40%前後を獲るし、その休止期間中に放送される「江戸を斬る」のシリーズもこの1980年からのものは『江戸を斬るV』とシリーズを重ねていて大好評であった。じつは、本作『雪姫隠密道中記』はその「ナショナル劇場」のスタッフが手掛けたものなのである。
江戸を斬る・第5部|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS
この6月から7月に掛けてこちらも久しぶりにオンエア中
「ナショナル劇場」はTBSが制作局となる枠でC.A.Lの制作なのに対して、毎日放送が制作局となる枠でS・H・Pなるところの制作となっていて無関係のように思われるかもしれないが、S・H・Pとは、「ナショナル劇場」の原作脚本を手掛ける葉村彰子のイニシャル、S.HのPROJECTという意味を持たせたもので、「江戸を斬る」シリーズの主演、西郷輝彦が1977年に出演した現代劇『ジグザグブルース』(制作:テレビ朝日-東映)打ち切りで→『鉄道公安官』(制作:テレビ朝日-東映)の企画協力にもその名が登場している。
「新幹線公安官」第1・2話 YouTube東映公式で無料配信開始 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)
『大岡越前』の大坂志郎、『水戸黄門』の中谷一郎など
「ナショナル劇場」でおなじみの面々がレギュラーで出ている
なお、前番組『ジグザグブルース』には松山英太郎が出ていた
また、以前の記事でも紹介したように、「ナショナル劇場」の制作にはTBSのスタッフはそれほど関知せず、C.A.Lと番組スポンサーである松下電器の東京宣伝事業部部長、逸見稔が手掛けていた持ち込み番組であった。その逸見稔こそが脚本家集団である葉村彰子を束ねていた元締めであり、S・H・Pのリーダーでもあった。
三船プロで撮っていた「江戸を斬るIV」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)
「ナショナル劇場」の制作方式を事細かに解説出来たと自画自賛
この1980年、逸見稔は松下電器から独立退社して、自身の制作プロダクション、オフィス・ヘンミを作る。設立は1980年8月27日となっており、S・H・Pが手掛けたこの『雪姫隠密道中記』の最中となる。その後、S・H・Pはオフィス・ヘンミに組み込まれて発展的解消を遂げたことから、実質的にはオフィス・ヘンミの制作となるのである。
また、プロデューサーにはC.A.Lの西村俊一、撮影などの制作協力には東映太秦映像とナショナル劇場そのまんまのスタッフが関わっていることから、この前に東京12チャンネルで放送されていた、『大岡越前』のスピンオフでもある和田浩治主演『疾風同心』(制作:C.A.L)→後番組で続編『八丁堀暴れ軍団』(制作:C.A.L)と同じくらい「ナショナル劇場」枠の時代劇と親和性が高いのがお判りいただけるかと思う。
時代劇制作者随一の歴史オタクである西村俊一らしく、史実をベースにしており、三代将軍家光の江戸時代、肥後国熊本藩の大名である加藤忠弘に謀反の疑いが掛けられて御家取り潰しにされてしまったことから、(ここからは架空の話で)その娘、雪姫(片平なぎさ)が堅物の忠臣(和田浩治)を連れ立って将軍へ無実だと直訴するために江戸へ出立する。その旅には、忠弘謀反の真相を探るべく幕府から派遣された間者で表向きは気ままな浪人を装う伊達男(あおい輝彦)や、元忍者の義賊(中村敦夫)らと道連れになり、ついでにお千(森マリア)&六助(小松政夫)の間が抜けているスリ師コンビも加わって道中で遭遇する「ナショナル劇場」おなじみの、いやいや、時代劇なら定番の、弱きを助け強きを挫く人助けをしていく展開となっている。
和田浩治は先述した通り、『大岡越前』やそのスピンオフ『疾風同心』→後番組で続編『八丁堀暴れ軍団』に主演。片平なぎさは1985年に放送された『水戸黄門』第15部に黄門一行に帯同するレギュラーで出演していて、本作『雪姫隠密道中記』と同じように取り潰しの危機に遭う藩の姫君を演じている。あおい輝彦は1988年開始の『水戸黄門』第18部から助さん役でレギュラー入り。森マリアは1988年開始の『大岡越前』第10部で密偵役のお柳でレギュラー入りしたのに加え、翌1989年のシリーズ一作のみ作られた西田敏行主演『翔んでる!平賀源内』に森と小松政夫がレギュラーどうしで『雪姫隠密道中記』以来の再共演を果たした。そして、小松が1991年開始の『大岡越前』第12部から同心役でレギュラー入りして森と再々共演していくなど、この作品は『太陽にほえろ!』で謂うところの『俺たちは天使だ!』みたいな存在なのである。
中村敦夫も「ナショナル劇場」と縁があり、長いキャリアの中で『水戸黄門』のシリーズに幾度か出演した他、「江戸を斬る」シリーズの一作目、『江戸を斬る 梓右近隠密帳』に将軍家光と対立した徳川忠長役でゲスト出演したことがある。そう、本作『雪姫隠密道中記』と同じ時代設定だから、初回と最終回だけの出演となるのだが、その将軍家光役は長谷川哲夫が再び演じているところも「ナショナル劇場」マニアにはポイント。
「江戸を斬る 梓右近隠密帳」 | 茶屋町吾郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)
それから中村敦夫はこの土曜10時の枠で放送された『江戸特捜指令』にも主演していて、正義の味方である隠し目付け集団のリーダーで普段は芝居の脚本家を演じた。人を喰ったような飄々としたキャラで、本作『雪姫隠密道中記』で演じるキャラと似ているのは、毎日放送側のプロデューサーが同じだったからだろう。
本作『雪姫隠密道中記』はソフト化もされず、BSやCSでもここ最近はなかなか放送されなかったレア度高めな逸品である。まだ観たことない!?って方は、どうぞこの機会にご視聴されたし。
【だん吉・なお美のおまけコーナー】
第1話開始日の1980年4月5日(土)の番組表
前時間帯9時枠では日本テレビ「グランド劇場」枠では『池中玄太80キロ』が開始
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それも『雪姫隠密道中記』つぶし!?か片平なぎさがマドンナのもので